JISA平成17年度税制改正について自民党へ要望

平成17年度税制改正に関する情報サービス産業界の要望

わが国経済は、国内民間需要が着実に増加していることから、景気は回復基調にあるとみられているものの、原油など素材価格の動向が内外経済に与える影響や長期金利の急上昇による景気の腰折れが懸念されており、先行きの見通しは未だ楽観できない状況にあります。

こうした情勢のもとで、我が国が市場のグローバル化に対応し、産業の競争力を維持し高度化するためには、ITの高度な利活用が不可欠であります。これを実施するためには、「e-Japan戦略」を推進すると共に、企業が自由な事業活動を行うことができる環境を整備することが必要であり、これに係る税制面の支援が不可欠であります。

わが国が目指す世界最先端の社会は、ソフトウェアを介して、誰もが、いつでも、どこでも情報にアクセスできる「ユビキタス社会」であり、情報サービス産業は、そのユビキタス社会を実現する主要な担い手としての役割を果たすことを期待されています。

つきましては、平成17年度税制改正において、以下の諸点について要望いたしますので、格別のご高配を賜りますようお願い申し上げます。

(注) ユビキタス(Ubiquitous)とは、ラテン語で「いつでも、どこにでも存在する」という意味。


経済活性化に向けた税制

1.LLP(有限責任事業組合)税制の創設

情報サービス産業は、経済環境の変化と情報技術の進展に伴って、事業領域の拡大と企業活動の多様化が進んでおります。こうしたなかで、法律事務所等の専門的サービス業と同様に、ごく少数のIT技術者が集まってIT分野のコンサルティングなど自らの知識・ノウハウをもとに専門的なサービスを提供する事業形態を志向する人が増えてきています。

こうした事業形態には、構成員が出資額を超えて責任を負わないパートナーシップ制が望ましいといえます。

そこで、民法上の組合の特例として、構成員課税が適用できる有限責任事業組合(LLP)税制の創設を要望致します。

2.受取配当の益金不算入制度の見直し

近年、受取配当金の益金不算入割合が縮減されてきておりますが*、これは、法人の所得に対し法人税と所得税との二重課税を行うべきではないとのシャウプ勧告以来の法人擬制説に基づく考え方と矛盾しています。

そこで、全ての国内株式に係る配当金については、全額益金不算入を認めていただきたく、要望致します。

* 保有比率25%未満の特定株式の益金不算入割合:平成元年度90% 214年度80% 15年度以降50%

3.連結納税制度における対象範囲の拡大

平成14年度から導入された連結納税制度は、企業グループ各社の損益を合算して法人税を課すものであり、グループ経営の推進を税制面から支援する制度であります。

情報サービス産業におきましては、データセンター事業やコンテンツ関連事業等の新規事業を開始した当初の業績は赤字になる傾向があるため、こうした事業投資リスクが高い分野に子会社を設立して参入を図る場合は、リスク分散の観点から、当該事業への出資を募って自社の出資比率を低く抑えることが一般的です。

しかし、現行の連結納税制度は、適用対象法人が全額出資子会社に限られているため、上記の子会社については、その対象とならず、制度の導入意欲を削ぐ結果となっています。

そこで、連結納税制度の適用対象につきましては、適用対象法人の株式保有割合を現行より引き下げていただきたく要望いたします。

4.減価償却資産の償却可能限度額引き上げ

減価償却計算の基礎となる残存価額は、取得価額の10%、耐用年数到来後の償却可能限度額として、同じく5%とされておりますが、耐用年数到来時には既に資産価値を喪失しているのが実態であります。

そこで、残存価額及び償却可能限度額の適正化を図ることを目的として、これを法定耐用年数内に備忘価額(1円)まで償却できるよう要望いたします。

5.企業年金等の積立金にかかる特別法人税の撤廃

一昨年に実現した確定拠出年金制度は、転職の際の年金資産の移管(ポータビリティ)を確保し、人材移動の円滑化による適材適所の実現を図ることができると共に、従業員個人が自らの努力と責任とにおいて、老後の所得確保を図る手段となり得ることから、積極的な導入が望ましいといえます。

しかし、企業年金の資産は、特別法人税の課税対象とされているため、年金制度の充実を図る企業の意欲を削ぐ結果となっております。

そこで、企業年金における拠出時・運用時非課税、給付時課税の原則に基づき、時限的に運用が凍結されている特別法人税は廃止していただきたく要望致します。

6.中小企業総合支援新法の下での創業・経営革新新支援策の統合・強化

中小企業総合支援法のもとでの創業・経営革新支援策の統合・強化を図るため、以下の措置を講ずることを要望致します。

  • 「中小企業創造活動促進法」に規定される創業5年未満の中小企業者、同法に規定される研究開発等事業計画の認定を受けた中小企業者、「中小企業経営革新支援法」に規定される経営革新計画の承認を受けた中小企業者等に対する中小企業等基盤強化税制について、対象要件等の拡充等を行った上で、適用期限を延長する。
  • 「中小企業経営革新支援法」に規定される経営基盤強化計画を実施する特定組合等の構成員の機械等の割増償却制度の適用期限を延長する。
  • 「中小企業経営革新等総合支援法(仮称)」に新たに規定される新連携計画の承認を受けた中小企業者等が取得する設備に対する一定の税額控除または特別償却を認める制度を創設する。
  • 「新事業創出促進法」の「中小企業経営革新等総合支援法(仮称)」への統合後においても、特定の基金に対する負担金の損金算入の特例について、現行制度と同様の特例措置を講ずるとともに、「新事業創出促進法」に規定する特定高度技術産業集積地域における高度技術産業用設備の特別償却制度の適用期限を延長する。また、エンジェル税制について、現行制度と同様の特例措置を講じるとともに、特定中小会社の株式等に係る譲渡所得等の課税の特例措置について、適用期限を延長する。

情報サービス業関連税制

1.人材投資促進税制の創設

情報サービス産業は、IT技術者のもつ知識とノウハウをもとにサービスを提供する業態であり、技術者の質が企業の競争力を左右します。しかし、近年、ユーザーの情報化投資において品質・コストに対する要求が厳しさを増すと共に、中国等のアジア諸国の低賃金で働く優秀なIT技術者を擁する外国企業との競争も激しさを増しており、我が国の情報サービス企業は、社内でIT技術者の育成に係る投資を負担する余裕を失ってきています。

しかし、情報サービス企業がIT技術者育成の投資を控えることは、産業の競争力の弱体化を招くことになりかねません。

そこで、我が国の情報サービス企業がその成長を牽引する人材の投資を促進するために、人材育成費用について税額控除等の税制上の措置を講じた新しい制度の創設を要望致します。

2.ソフトウェア償却年数の短縮

自社で利用する目的で無形固定資産に計上するソフトウェアは、現在、5年で償却することが定められていますが、ソフトウェアは、技術革新による機能の陳腐化、不適応化が急激に進展するため、5年では利用の実態と法定耐用年数とが対応できていないのが実態です。

そこで、複写して販売する原本及び研究開発用ソフトウェアと同様に、償却年数を3年に短縮することを要望いたします。

3.みなし共同事業課税の廃止

事業所税は、従業者給与総額と事業所床面積とを課税標準とする税目ですが、平成15年度税制改正で創設された法人事業税の外形標準課税制度において、その外形基準として報酬給与額と土地・家屋に係る純支払賃借料*が付加価値割における課税標準とされたことから、課税客体が重なるため、その廃止が検討されるべきであります。

ところで、近年、情報サービス産業では、事業の効率化の促進、間接コスト削減を目的として、グループ企業のオフィスを一箇所に集約する動きが進んでおります。事業所税では、一定規模までの事業所は免税**とされておりますが、グループ企業で事業所を一箇所に集約して事業を行った場合は共同事業とみなされており、課税計算上では従業者給与総額と事業所床面積とが合算されて単独として扱われてしまいます。このため、グループ企業の中に免税点に達しない企業があったとしても免税の対象外となり、税負担の増加を招く結果となっています。

そこで、今後も事業所税が存続する場合には、グループ企業経営の合理化努力を否定する、みなし共同事業に対する課税は廃止していただきたく、要望致します。

* 土地・家屋に係る支払賃借料受取賃借料(マイナスの場合には0[ゼロ])
** 一般事業所の免税点:事業所床面積の合計面積が1,000平米以下、従業者の合計数が100人以下


法人税法における企業会計の尊重

一般に公正妥当と認められた企業会計の基準によって求める期間損益の額は、企業の実態を表す指標として最も妥当なものといわれています。法人税法においても、確定決算主義のもとで企業会計基準が尊重されています。これは、企業側の事務負担を軽減するのみならず、課税当局側にとっても、税制の簡素化・徴税コストの軽減に資するものであり、重要な意義を有しているといえます。

しかし、近年、会計基準の国際化の流れの中、数多くの企業会計基準が改正され、税務上で多額の申告調整を行わざるを得ない結果となり、確定決算主義の長所が損なわれることとなっています。

そこで、企業会計基準に基づいて適正に会計処理されたものは、税務上も極力妥当なものと判断して損金算入を認めると共に、法人税法の改正にあたっては、企業会計基準を十分に尊重し、税法が企業会計といたずらに乖離することのないよう配慮されることを要望いたします。

以上

平成16年9月24日

社団法人 情報サービス産業協会
会長 佐藤 雄二朗

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