JISA平成16年度税制改正について自民党へ要望

平成16年度税制改正に関する情報サービス産業界の要望

わが国経済は、株価の上昇、米国経済の景気回復等から好転しつつあるとされるものの、不良債権問題の長期化や金利の上昇による設備投資への悪影響、円高の可能性、厳しい雇用情勢等を背景とした消費マインドの回復の遅れ等が懸念されており、景気回復への不透明感が拭いきれないままに推移しています。

こうした情勢のもとで、経済財政構造改革を推し進め、持続的な経済成長を図るためには、本年7月に発表された「e-Japan戦略」を推進すると共に、企業に積極的な設備投資、研究開発を促し、自由な事業活動を行う環境を整備することが必要であり、これに係る税制面の支援が不可欠であります。

わが国が目指す高度情報通信ネットワーク社会は、ソフトウェアを介して、誰もが、いつでも、どこでも情報にアクセスできる「ユビキタス社会」であります。情報サービス産業は、そのユビキタス社会を実現する担い手としての役割を果してまいります。

つきましては、平成16年度税制改正において、以下の諸点について要望いたしますので、格別のご高配を賜りますようお願い申し上げます。

(注) ユビキタス(Ubiquitous)とは、ラテン語で「いつでも、どこにでも存在する」という意味。


経済活性化に向けた税制

1.欠損金の繰越期間の延長と繰戻し還付の復活

欠損金の繰越制度は、本来であれば、期間毎の租税負担の公平を図る観点から設けられ、企業の全存続期間にわたり繰り越されるべきものであります。

これに関して、わが国では、財政の安定性の観点から人為的、便宜的に5年の繰越控除が認められているにすぎず、繰戻し還付は凍結されています。

しかし、こうした取扱いは、経営リスクの高い事業への投資をためらわせることとなるほか、諸外国とのイコール・フッティングの観点(※)からも見直すべきであります。

そこで、企業規模、形態を問わず、帳簿保存期間を勘案し、繰越期間を7年間に延長するとともに、繰戻還付を復活していただきたく、要望いたします。

(※) 繰越控除:米国:20年間、英国:無期限、繰戻し還付:米国:2年間、英国1年間

2.連結納税制度における連結付加税の撤廃と子会社繰越欠損金の容認

平成14年度から導入された連結納税制度は、企業グループ各社の損益を合算して法人税を課すものであり、グループ経営の推進を税制面から支援する制度であります。

情報サービス産業におきましても、一般的に新しい事業を開始した当初の業績は赤字になる傾向にあり、データセンター事業やコンテンツ関連事業など経営リスクが高い分野に子会社を設立して進出を図る場合も同様の可能性が見込まれることから、本制度には大きな期待が寄せられています。

しかし、連結納税制度の利用に際しては、2年間の時限措置ながら2%の連結付加税が課されていることが大きな障害となっていることに加え、制度の採用時に子会社欠損金を連結納税の対象に含めることができないことも利用を見送る理由とされています。

そこで、連結付加税につきましては適用期限で確実に撤廃すると共に、子会社が有する繰越欠損金も連結納税制度の対象としていただきたく、要望いたします。

3.減価償却資産の償却可能限度額引き上げ

減価償却計算の基礎となる残存価額は、取得価額の10%、耐用年数到来後の償却可能限度額として、同じく5%とされておりますが、耐用年数到来時には既に資産価値を喪失しているのが実態であり、除却コストも償却可能限度額で収まらないことから合理性を欠いております。

そこで、残存価額及び償却可能限度額の適正化を図ることを目的として、これを法定耐用年数内に備忘価額(1円)まで償却できるよう要望いたします。

4.中小企業投資促進税制の延長

本税制は、平成10年4月の総合経済対策において、内需拡大を図る観点から導入されたものであり、来年3月に適用期限が到来することとされています。

しかし、中小企業の事業環境は、長引く景気の低迷により、依然として厳しい状況が続いており、本税制の必要性はいささかも失われてはおりません。

そこで、本制度の適用期限の延長を要望いたします。

5.非上場株式に関する税率軽減

証券市場対策の観点から、上場株式に関する譲渡益課税の税率が引下げられましたが、非上場株式については据え置かれたままとなっています。ベンチャー企業への直接投資の拡大、中小企業の事業承継の円滑化を図るため、非上場株式に係る譲渡益課税の税率も上場株式の譲渡益に係る税率と同様に、26%から20%に軽減して頂きますよう要望いたします。


情報サービス業関連税制

1.研究開発税制における適用条件の整備

平成15年度税制改正によって抜本的に強化された研究開発税制は、知識が富を生む社会の創造を目指すべきわが国において、画期的な制度であり、極めて評価できるものであります。しかし、情報サービス産業においては、残念ながら、本税制における試験研究費の範囲と対象に関して、現行では事業の実態に則した解釈・運用ができなくなる可能性があることから、必ずしも充分な利用が進んでいない状況にあります。

そこで、本税制の利用を促すために、適用条件について次の事項を明確にすることを要望します。

  • 試験研究の範囲:原則として企業会計上の研究開発の定義に基づくものとする(注1)。
  • 税制の適用対象:試験研究費に含まれる費用のうち、人件費については、一定の条件のもとで、専門的知識をもって試験研究に従事した者に係るものを対象とする(注2)。

(注1)  企業会計上の研究開発は、平成10年3月に大蔵省(当時)企業会計審議会から公表された「研究開発費等に係る会計基準」において、「研究とは、新しい知識の発見を目的とした計画的な調査及び探究をいう。開発とは、新しい製品・サービス・生産方法についての計画若しくは設計又は既存の製品等を著しく改良するための計画若しくは設計として、研究の成果その他の知識を具体化することをいう。」と定められている。
(注2)  一定の条件とは、例えば、試験研究活動に関する規程等を設定し、当該規程等に基づいて、その活動状況を適切に管理すると共に、所定の記載要件を具備した書類により試験研究活動を立証できることをいう。

2.ソフトウェア償却年数の短縮

自社で利用する目的で無形固定資産に計上するソフトウェアは、現在、5年で償却することが定められていますが、ソフトウェアは、技術革新による機能の陳腐化、不適応化が急激に進展するため、5年では利用の実態と法定耐用年数とが対応できていないのが実態です。

そこで、複写して販売する原本及び研究開発用ソフトウェアと同様に、償却年数を3年に短縮することを要望いたします。


企業年金に係る税制の整備 確定拠出年金の拡充と特別法人税の廃止

昨年実現した確定拠出年金制度は、転職の際の年金資産の移管(ポータビリティ)を確保し、人材移動の円滑化による適材適所の実現を図ることができると共に、従業員個人が自らの努力と責任とにおいて、老後の所得確保を図る手段となり得ることから、積極的な導入が望ましいといえます。しかし、供出限度額が低すぎるマッチング拠出(※)不可中途引き出し不可等の制約があることから、確定拠出年金制度は普及しておりません。

また、年金資産に課税される特別法人税は、時限的に運用が凍結されておりますが、これも企業年金制度の充実を図る企業の意欲を削ぐ結果となっております。

将来有望な若年層を多数雇用する情報サービス産業等のいわゆる成長産業が、私的年金制度の充実の一環として確定拠出年金制度を積極的に導入することは、わが国の貯蓄に偏重した家計を証券投資に向かわせる契機となる意味においても重要であります。

つきましては、現行の確定拠出年金制度における上記の制約を取り除くと共に、特別法人税を廃止していただきたく、要望いたします。

(※)マッチング拠出:
米国の確定拠出年金制度では、従業員に制度加入のインセンティブを与えるため、従業員の拠出額に対して企業がその一定割合を上乗せして拠出されます。しかし、我が国の確定拠出年金制度においては、企業型では企業の拠出しか認められておらず、マッチング拠出を行うことはできません。


法人税法における企業会計の尊重

一般に公正妥当と認められた企業会計の基準によって求める期間損益の額は、企業の実態を表す指標として最も妥当なものといわれています。法人税法においても、確定決算主義のもとで企業会計基準が尊重されています。これは、企業側の事務負担を軽減するのみならず、課税当局側にとっても、税制の簡素化・徴税コストの軽減に資するものであり、重要な意義を有しているといえます。

しかし、近年、会計基準の国際化の流れの中、数多くの企業会計基準が改正され、税務上で多額の申告調整を行わざるを得ない結果となり、確定決算主義の長所が損なわれることとなっています。

そこで、企業会計基準に基づいて適正に会計処理されたものは、税務上も極力妥当なものと判断して損金算入を認めると共に、法人税法の改正にあたっては、企業会計基準を十分に尊重し、税法が企業会計といたずらに乖離することのないよう配慮されることを要望いたします。

以上

平成15年9月25日

社団法人 情報サービス産業協会
会長 佐藤 雄二朗

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