情報サービス産業における適正な人的資本価値の実現及び労務費等の適正な転嫁に向けたお願い
(改めてのお願い)

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会員企業各位

2025年1月30日
一般社団法人情報サービス産業協会会長
 福永 哲弥

 JISAは、2024年6月、業界全体における対話促進及び価格転嫁の必要性に鑑み、情報サービス・ソフトウェア産業における適正取引の推進のための自主行動計画(以下「自主行動計画」)を緊急に改定するとともに、私からも会員企業の皆様方にお願い文書(「会長レター」)をお送りし、特に下記の3点をお願いしたところです。

①受注者からの要請の有無にかかわらず、発注者から積極的に価格転嫁に向けた協議の場を設けていくものとすること。
②労務費については、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」
 (内閣官房・公正取引委員会。以下「指針」)に掲げられている「事業者が採るべき行動/求められる行動」を適切にとった上で、取引対価を決定すること。
③原材料費やエネルギーコストの高騰があった場合は、適切なコスト増加分の全額転嫁を目指すものとすること。

 その後、2024年10月から11月にかけて、この「自主行動計画」のフォローアップ調査(添付資料1。以下「FU 調査」 )を行いましたが、会員企業におかれては、「自主行動計画」の趣旨を十分に理解され、適切な価格形成・価格転嫁に向けて、積極的な対応を図っておられる事が確認出来ました(下記「ご参考」(「FU調査」抜粋)(1)参照)。誠にありがとうございました。

 他方、改善の余地が残る点もいくつか見受けられたところであります(下記「ご参考」(「FU調査」抜粋)(2)参照)。

 会員企業におかれましては、こうした結果を踏まえ、労務費の適切な価格形成・価格転嫁に向けて、より一層のご努力をいただきたく、私から改めてお願いを申し上げる次第であります。

 昨年6月に出状いたしました「会長レター」でも申し上げましたが、賃上げ及び取引価格の値上げ、そしてそれらの前提たる適切な価格形成は、私達情報サービス産業における人的資本が本来的に有する「価値」、そしてその人的資本が創造する新しい「価値」の実現そのものであり、産業全体が単純な労働集約型の事業モデルから価値創造型の事業モデルに構造転換を図る上での必要条件として、自分事として取り組むべき事業課題だと考えております。勿論ながら、様々な政治経済要因から将来を見通すことが難しい、現下の事業環境におきまして、作り出される「価値」を適切に把握し、価値額に応じた報酬体系につなげていくことは容易に対応できる課題ではない事は十分に理解しております。しかしながら、この課題解決は、この難しい環境下、企業としての、そして産業としての新しい成長軌道を確保するためには必須不可欠なものであり、是非とも宜しくお願いしたいと存じます。

 なお、JISA企画委員会法務・契約部会では、このたび「取引適正化実践マニュアル」(添付資料2)を策定し、各会員企業が適正な取引を推進する上で、発注者として必要となる対策のポイントや行ってはならない取引慣行をまとめました。取引適正化に向けたご尽力をいただく際に、是非ご参考としていただきたいと思います。

(ご参考)「FU調査」抜粋

以下、「FU調査」(添付資料1)から、抜粋してご紹介します。

(1)積極的な対応が確認出来た点
①「3.(単価協議の実施についての)発注者側から積極的な働きかけについて(受注側回答)」において、「販売先から申し出があり、協議を行った」とする回答が、前年度(2023年度)はゼロであったのに対し、2024年度はすべての単価について増加した事が確認できました(「コスト全般」は11%、「労務費」は11%等)。「自社から申し出を行い、(販売先が)協議に応じてくれた」との回答まで含めると、「コスト全般」と「労務費」いずれも全体で9割程度になる点は、前年度同様でした。

②「5.「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」の遵守状況」において、「指針」に記載された各項目を概ね遵守出来ている事が確認出来ました。
 たとえば、「①労務費の価格交渉について、経営トップが関与している」について、「対応できている」との回答が86%、「④サプライチェーン全体での適正な価格転嫁を行うことを意識して、要請額の妥当性を判断する」について、「対応できている」との回答が81%、「⑤仕入れ先(発注先)から労務費の上昇を理由に取引価格の引き上げを求められた場合、協議のテーブルにつく」について、「全てについて(または概ね)対応出来ている」との回答が併せて91%、「⑥必要に応じて仕入れ先(発注先)に労務費上昇分の価格転嫁に関する考え方を提示する」について、「対応できている」との回答が84%となりました。

③「1.法令や取組の認知度」において、JISA会長レター(昨年6月の会長名での「お願い」)について、回答企業の81%から「認知」いただいた事が確認できました。

(2)改善の余地が残る点
①「5.「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」の遵守状況」において、いくつかの項目で対応が未だ十分でない点もみられました。
 たとえば、「②仕入れ先(発注先)と定期的に労務費の価格転嫁について協議の場を設けている」について、「全てにおいて対応出来ている」との回答は25%、「⑧価格交渉の記録を作成し、貴社と仕入れ先(発注先)の双方で保管する」について、「全てにおいて対応できている」との回答は31%にとどまりました。

②「6.各変動コストの反映状況」において、「労務費の変動」の価格への反映について、「(発注側から見て)全て反映した」との回答が13%、「(受注側から見て)全て反映された」との回答は4%と、未だ十分でない点が見られました。
 なお、この点については、「全て反映した(された)」とする回答率の低さに加え、両者(発注者及び受注者)の認識にかなりの乖離が見られる点は、改善の余地があると思われます。 


■添付資料1:「未来志向型の取引慣行に向けて」に関する自主行動計画のフォローアップ調査結果(2024年度)集計結果(抜粋)

■添付資料2:JISA「取引適正化実践マニュアル」



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