「企業取引研究会報告書」に対する意見

JISA、公正取引委員会「企業取引研究会報告書」に対し意見書提出

11月27日、公正取引委員会は「企業取引研究会報告書」を発表した。

企業取引研究会は、公正取引委員会が役務の委託取引の公正化等、経済環境の変化に即応した優越的地位の乱用規制について、下請代金支払遅延等防止法(下請法)のあり方を中心に検討することを目的に設置したものである。

報告書では、従来製造業を対象としていた下請法を情報サービスを含む役務取引全般に適用拡大する方向で検討が行われており、情報サービス業界に対する影響が大きいことから、当協会では取引委員会及び理事会・正副会長会議での検討を経て、12月20日意見書を公正取引委員会に提出した。

なお、参考までに11月19日のJISA理事会において配布された資料も併せて掲載する。

※「企業取引研究会報告書」は、公正取引委員会Webpageより入手可能(URLは下記のとおり)


情産14-270
平成14年12月20日

公正取引委員会 事務総局
取引部長 楢崎 憲安殿

社団法人 情報サービス産業協会
会長 佐藤 雄二朗

取引委員会
委員長  瀧浪 壽太郎

「企業取引研究会報告書」に対する意見

本年9月、貴委員会におかれてましては有識者からなる「企業取引研究会」を設置され、役務の委託取引の公正化等、経済環境の変化に即応した優越的地位の濫用規制について、下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」という)の規制のあり方を中心に検討を行ってこられましたが、このたび発表された役務の下請法の委託取引への適用拡大を主内容とする「企業取引研究会報告書」(以下「報告書」という)に対し、以下のとおり意見を申し上げます。

当協会としても、情報サービス取引の適正化に向けて、事業者が遵守すべき取引のルールを確立することは有意義であると考えており、平成12年には「情報サービス取引ガイドライン」を、平成14年には「新しいソフトウエア開発委託取引のあり方」を策定するなど独自の取り組みを行ってきております。

しかしながら、下請法はもともと製造業における委託取引を対象としているため、現行の規制内容をそのまま情報サービス取引に適用した場合、当業界の取引の実態に適合しない部分が出てまいります。また、下請法の適用対象が、資本金など特定の条件にあてはまる一部の取引に限定されているため、多様な情報サービス取引全般の適正化という観点からすると問題があります。

このような問題点を十分考慮することなく下請法を情報サービス取引に適用した場合、取引規制の不公平、外国企業への発注や人材派遣への依存等、産業の空洞化を促進し、その結果中小零細企業の保護という下請法の目的と反する事態を招くことにもなりかねません。

このような認識に基づき、本意見書においては、下請法を情報サービス取引に適用した場合の問題点について指摘するとともに、

  • 下請法を情報サービス取引に適用するにあたっては、規制の内容を業界の取引実態にふさわしいものとすること。
  • 下請法では実現できない情報サービス取引全般の適正化について、民間の自主的な取り組みを十分に尊重すること。

を要望いたします。


問題点

1.「第2 経済環境の変化に即応した下請法の規制の在り方」について

(1)「1 下請法の対象範囲」について

1)「(1)下請法が対象とすべき役務の委託取引」について

報告書では、役務の委託取引について、以下の取引を中心に下請法の対象とすることが適当であるとしている。

  • 事業者が業として提供する役務について、その役務の全部又は一部を他の事業者に委託すること。
  • 事業者が業として行う成果物の作成又はその成果物を構成する成果物の作成を他の事業者に委託すること。

すなわち、下請法は同業者間取引を対象とするということであるが、これを情報サービス業における取引にあてはめると、最終顧客であるユーザ(企業、官公庁)と情報サービス企業の取引(いわゆる「ユーザ取引」)は下請法の対象とはならないことになる。

しかし、情報サービス取引はユーザ、コンピュータメーカ、情報サービス事業者などの重層構造の中で行われるものである。したがって、この取引連鎖の一部を切り出した形で法規制することは問題である。

情報サービス産業における取引問題のひとつは、最終顧客たるユーザ(民間企業、官公庁)の立場が強く、かつ発注条件が厳しいという点にある。特に、昨今は厳しい不況により開発案件が減少しており、受注側の情報サービス事業者は従来にもまして弱い立場に追い込まれているのが現状である。

そのような状況で一定規模以下の下請事業者のみを保護する下請法を導入すれば、下請法で保護されないシステムインテグレータや中堅下請事業者は、下請法で保護される小規模な下請事業者とユーザ、コンピュータメーカの間で板挟みとなり、不当に厳しい状況に追い込まれることが予想される。

また、ユーザが情報システム部門を別会社化している場合、そこからの発注は情報サービス企業同士の同業者間取引となるが、別会社化していない場合はユーザ取引となる。下請事業者の立場からすると、この2つのケースは本質的に同じ種類の取引であるが、現行の下請法の規定では、前者は下請法によって保護され、後者は保護されないという不合理が発生する。

2)「(2)親事業者と下請事業者を画する基準」について

報告書では、役務の委託取引についても、現行の下請法の規定と同様に、引き続き資本金を基準として親事業者と下請事業者を画することが適当であるとしている。

しかし、前項でも述べたとおり、情報サービス取引はユーザ、コンピュータメーカ、情報サービス事業者などの重層構造の中で行われるものであり、この取引連鎖のうち特定の条件にあてはまる一部の取引を切り出した形で法規制することは問題である。

仮に何らかの基準を設ける場合でも、情報サービス業には設備投資の必要性があまりない受託ソフトウエア開発や、自前の情報システムを運用してサービスを提供する情報処理サービスなど、さまざまな業態が混在している。このため、売上高や従業員数など企業規模を表す他の指標と資本金の間には相関がない。

また、

  • 情報サービス業においては、優越的地位は企業規模よりも技術力・ノウハウで決まる。
  • 親事業者(発注者)が下請事業者(受注者)よりも企業規模が大きいとは限らない。

等の指摘もあり、資本金の多寡が必ずしも優越的地位を示す指標として適当とは言えない。したがって、親事業者と下請事業者を画する指標として資本金のみを用いることは問題がある。

3)「(3)下請法の対象範囲の拡大に伴う支払期日等の規定の整理」について

現行の下請法の規定が製造業における委託取引を前提としているため、情報サービス取引に適用した場合、業界の商慣行になじまない点がある。

  • 下請法第3条第1項では、「親事業者は、下請事業者に対し製造委託又は修理委託をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより下請事業者の給付の内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない」とされている。

しかし、ソフトウエア開発においては、一般に開発着手時には顧客・事業者とも成果物のイメージは不明確であり、仕様が確定していないことが多い。また、開発途上において仕様変更が頻繁に発生する。このため、プロジェクト開始時には最終的な金額・納期ともに明確になりにくいという特性がある。したがって、委託後直ちに給付の内容を記した書面を下請事業者に交付することは多くの場合不可能である。

報告書は、このような問題が存在することを認識している旨明記した上で、「書面の記載事項については、取引形態に応じて一定の範囲で柔軟に対応できるよう、規定の整備を行うことが必要」としている。当協会としてはこのような配慮が行われていることを評価するとともに、適切なルールが策定されることを期待する。

  • 下請法第2条の2では、下請代金の支払期日について、親事業者が下請事業者の給付の内容について検査するかどうかを問わず、親事業者が下請事業者の給付を受領した日から起算して、60日以内に定められなくてはならないとされている。

しかし、ソフトウエア開発のような「成果物作成委託」の役務取引においては、下請事業者の給付内容について、対象が目に見えないものであるため、受領後直ちに完成品であるかどうかを判断するのは難しく、検査には相当の時間がかかるのが実態である。したがって、「検査するかどうかを問わず、給付を受領した日から60日以内に支払期日を定める」との規定は、ソフトウエア開発の特性から見て問題があり、取引の実態にあわない。

報告書は、このような問題が存在することを認識している旨明記した上で、「支払期日の明確化の要請も踏まえつつ、委託事業者の正当な事業活動の遂行に支障を来すことがないよう、関連する規定の見直しを検討する」としている。当協会としてはこのような配慮が行われていることを評価するとともに、適切なルールが策定されることを期待する。

一方、情報システムの運用保守など「役務提供委託」の業務については、継続的に役務を提供するものであり、給付の受領という概念がなじまないことを指摘しておきたい。

(2)「2.親事業者の禁止行為」について

1)「役務の成果物に関する不当なやり直し」及び「成果物に係る権利等の一方的取り扱い」について

「役務の成果物に関する不当なやり直し」及び「成果物に係る権利等の一方的取り扱い」については、取引当事者間の個別具体的な状況を踏まえて対処することが必要であるため、下請法の違反行為類型として規制しないのが適当とされている。しかし、これらの行為類型は重大な不公正取引であり、情報サービス取引全般の適正化という観点からは問題であり、何らかの適正化の対策が講じられるべきであると考える。


2.「第3 経済環境の変化に即応した下請法の運用の在り方」について

(1)「1 下請法の厳正な運用」について

現在製造業において、親事業者及び下請事業者に対し毎年定期的に実施されている書面調査について、調査対象である事業者側が対応に多大な労力を強いられているといわれる。

また、立入検査については、ソフトウエア開発について熟知した検査官でないと的確な判断は不可能と思われる。

しかし、現在製造業で行われている立ち入り検査では、画一的かつ硬直した運用によって常識的には正常な範囲の取引までが問題とされるなどの弊害が発生しているといわれる。下請法の改正に当たっては、その運用も含めて、これらの問題点の是正に努められることを要望する。


下請法の情報サービス取引への適用に関する当協会の意見

1.下請法を情報サービス取引に適用するにあたっては、規制の内容を業界の取引実態にふさわしいものとすべきである。

現行の下請法の規定は製造業における委託取引を前提としているため、情報サービス取引に適用した場合弊害が出る恐れがある。このことについては報告書においても指摘されているが、十分な検討が必要と考える。

1. 親事業者・下請事業者を画する基準を資本金のみとすることが妥当であるか、改めて十分な検討を行うべきである。
2. 下請法第2条の2の下請代金の支払期日の規定について、「成果物作成委託」の取引の場合、「給付の受領」は検査合格を条件とし、発注者側への規制として「不当に検査を遅延させる行為」を制限すべきである。また、「役務提供委託」の取引の場合、「給付の受領」という概念になじみにくいため、業界の実状に則したルールを検討すべきである。
3. 下請法第3条第1項の書面交付義務の規定については、委託後直ちに給付の内容を記した書面を下請事業者に交付するとなっているが、多くの場合不可能であるので、ソフトウエア開発の実状に則した書面化のルールを検討すべきである。
4. 書面調査については、可能な限り事業者の負担を軽減するような方法で行うべきである。
5. 立入検査については、ソフトウエア開発等について熟知した検査官でないと的確な判断は不可能なので、検査官のスキルにより検査結果が左右されることのないよう、専門家としての訓練と標準化を必ず行うべきである。

2.下請法では実現できない情報サービス取引全般の適正化について、民間の自主的な取り組みを十分に尊重すべきである

下請法の対象は、同業者間取引で、かつ、資本金で規定された親事業者と下請事業者の間の取引に限られている。しかし、ユーザ(民間企業、官公庁)と情報サービス企業の取引において、ユーザは発注者として取引上強い立場にあり、優越的地位を利用した不公正取引が少なからず発生しているといわれる。また、同業者間取引においても発注者が強い立場にあるのが通常であり、資本金による親事業者・下請事業者の規定により下請法の対象とならない取引の場合でも優越的地位の濫用は起こりうる。このように、情報サービス取引は非常に多様であるため、固定的な法的フレームで問題解決を図ることには限界がある。

このような実態を踏まえ、当協会は平成12年に「情報サービス取引ガイドライン」を策定するなど、情報サービス取引全般の適正化に向けた取引を積極的に行ってきている。貴委員会におかれては、このような民間の自主的な取り組みを十分に尊重することを希望する。

以上

  • 理事会資料「下請法の情報サービス業への適用について」

(本件に関する連絡窓口)
(社)情報サービス産業協会 調査企画部 田畑
〒135-8073 東京都江東区青海2-45 タイム24ビル 17階
TEL:03-5500-2610 FAX:03-5500-2630 E-mail:webmaster@jisa.or.jp

  •  

このページの先頭へ▲