産業構造審議会知的財産政策部会法制小委員会報告書(案)に対する意見

情産13-255
平成13年11月16日

社団法人 情報サービス産業協会

産業構造審議会知的財産政策部会法制小委員会報告書(案)に対する意見

全体論として

ネットワーク技術の進展に伴い、コンピュータプログラムならびにサービスの提供に関して、これまで法解釈上疑義が指摘されてきた特許法、商標法等に関し、法改正という形で諸点を明確化しようとする今回の検討およびその成果たる本報告書(案)を、当協会として概ね評価する。全体として、権利者の適正な保護ならびにサービス提供の安全と信頼性確保に資するものであると考えられるからである。ただし、こうした前提のもと、当協会として、慎重な配慮を求めたい諸点を以下の個別論にまとめた。

また、情報に関する技術革新の速度は日々加速しており、今回の議論をもってしても十分な対応とは言いきれない。予測的には、今回の議論が妥当する時間は長くない可能性があるため、今後ともさらに柔軟な対応を継続していくことが望まれる。このことにつき関係各位のご尽力に期待したい。


個別論として

1.直ちに取り組むべき課題(法改正事項)

(1) 発明の実施行為規定の改正

(意見)
賛成する。

(理由)

  • ネット上で取引等されるソフトウェアに関して、法的な疑義を解消するものであって、特許保護を確実なものとする方向性であると考える。
  • ただし、「2.今後取り組むべき課題」に盛り込まれた、「自然法則の利用」を要件としている現行法の発明定義規定およびこれについての現行審査基準である「ハードウェア資源の利用」については、上記実施行為規定の改正とともに、これを緩和する方向で見直し、柔軟なソフトウェア技術の保護を実現するようにすべきであると考える。すなわち、ネット上で流通するソフトウェア(プログラム)の保護が実施規定の見直しという形で必要となっていることは、逆に考えればハードウェア依存性の少ない情報体たる「物(=プログラム)」の流通が盛んとなっていることに違いなく、実施規定の問題と発明の定義規定の問題の双方は共通の土台に乗っているものであって、実施行為規定のみを改正し、発明規定の改正を先送りすることは妥当性を欠くと考えるからである。

(2) ソフトウェア関連発明の拡大と間接侵害

(意見)
法制化に先立ってさらに慎重な検討を重ねるべきである。

(理由)

  • 間接侵害規定を現行の客観基準(いわゆる「のみ」要件)だけでなく、他用途を有するもの(中性品)に関して、侵害につき悪意をもって供給する行為までをも含めようとする改正趣旨については一般論として理解できる。しかし、こと、情報サービス業の分野においては、ソフトウェア、プログラム、モジュール等について、専用品、中性品、汎用品の区別はそもそも不可能であり、そうしたなかで権利行使を許すことは事業活動の混乱を引き起こす危険性があり、また権利行使の実効性にも疑問が残る。このため、法改正に先立って、様々なソフトウェア等の開発およびその取引の実態を考慮して、こうした懸念を払拭することが望ましいと考える。

(3) 商標の使用行為規定の改正

(意見)
賛成する。

(理由)

  • インターネットを利用したサービスの種類が拡大、普及する昨今にあっては必要な改正であると考える。ただし、改正の方向性としては、包括的な使用概念を導入することではなく、現行規定を詳細化あるいはネット取引についての対応を追加的に行うことが妥当と考える。

(4) 先行技術開示制度の導入

(意見)
慎重な対応を求める。

(理由)

  • 制度趣旨およびその意義は理解するものの、先行技術文献の開示を求めることは出願人に対して過度な負担となることが懸念される。また、出願時に知っているか否かを要件とした場合、その開示範囲は極めて不明確とならざるを得ない。しかも、これは単に任意的記載事項に留まるものではなく、拒絶理由とするサンクションが予定されている以上、出願人を萎縮させる可能性がある。
  • 上記の事情は、情報サービス業界およびソフトウェア関連発明において特に顕著であることを危惧する。すなわち、情報サービス業においては、一般論として企業サイドでの特許対応が盤石なものではなく、目下、各社の努力によって特許出願等の体制を整えている過程にある企業も多い。しかも、SE(システムエンジニア)は先行技術について十分な知識を有しているとは限らず、さらに情報分野の先行技術文献については必ずしも明確でなく、しかも情報技術に関する文献化が十分でないことも予想されるため、開示義務の実効性についても疑問が残るという事情が存在する。
  • 本制度は広範な影響が懸念されるため、その導入にあたっては、準備期間あるいは移行期間を十分に設け、先行技術を開示したものには一定のメリットを与えることを前提に、開示することを常態とするように誘導して、その後に本格導入する方法や、開示範囲について、当面の間、発明者が過去に公表した学会・専門誌等文献に関する情報に限定する方法などの試行的な努力をまずはとることも一案ではないだろうか。それらの方法が現状困難であるとしても、少なくとも、曖昧さを排除した明確な運用指針を定めて公表し、周知を図ってからの導入とすべきである。
  • 加えて、先行技術文献に関する情報を秘匿したまま登録を受けた場合に、特許法197条(詐欺の行為の罪)が適用されるか否かについて疑義が残される。このことはまた、職務発明を行った従業員等から権利の承継をうけて出願する法人が、先行技術の開示について従業員等から十分な情報が得られないまま、その申告に基づいて特許登録を受けた場合には、201条により当該法人も処罰の対象となりえるか否かといった問題にもなりえる。一般的には、197条は刑法と異なり、消極的な行為(事実の隠蔽)については含まれないとする解釈が妥当と考えられるが、これについては少なくとも誤解を払拭する措置(法文上の手当て等)が必要と考える。

(5) 「特許請求の範囲」の「明細書」からの分離

(意見)
賛成する。

(理由)

  • 国際的な調和はもとより必要なことであり、また副次的には、難解な「特許請求の範囲」ではなく、「発明の詳細な説明」を読む人口が増え、結果的に特許関連公報が広く利用される可能性もあると考え、これを歓迎する。ただし、国際的なスタンダードに調和させることを前提とする以上、現行特許法36条6項1号に相当する規定は設けるべきでないこと、当然のことと考える。

(6) PCT出願における国内書面提出期間の延長

(意見)
賛成する。

(理由)

  • 準備期間が伸張されることで出願人の受けるメリットは大きい。ただし、このこととは直接関係はしないものの、外国から日本に出願された国際特許出願の国内公表公報の発行は速やかに行って頂きたい。法文上「遅滞なく」と記載されているにも拘わらず、現行実務においては国内書面提出期間経過後1年程度を経過して発行されている状況にあると考えられ、先行特許の調査のうえで支障となっている。

2.今後取り組むべき課題

(1) 発明の定義規定の在り方

(意見)
直ちに対応すべき課題と考える。

(理由)

  • 上記「1.直ちに取り組むべき課題」の(1)に記載のとおりである。

(2) 複数主体による特許権侵害への対応

(意見)
原則として賛成する。

(理由)

  • ネットワークを利用した情報処理については単独での直接侵害のみならず、複数主体が関与して侵害が成立する場面も多いことが考えられるからである。しかしながら、現段階においてはいかなる事業活動が問題であるのか、産業界からの具体的な声が明らかでないこともあるため、検討を継続することに賛成する。

(3) 国境をまたがる事業活動への対応

(意見)
原則として賛成する。

(理由)

  • インターネットを活用した事業活動は、当然に国境をまたがるものであって、この問題の帰趨は産業界としても最も関心の高いテーマのひとつである。特に、紛争解決に向けた国際ルールの形成は早期に妥当な結論を得たいと考える。

(4) 知的財産制度の国際調和の深化に向けた取り組み

(意見)
原則として賛成する。

(理由)

  • インターネット社会における枢要な課題であり、上記(3)の問題と合わせて検討を期待したい。

以上

  •  

このページの先頭へ▲