「産業構造審議会情報経済部会 第1次提言(案)ネットワークインフラに関する競争環境の整備及びIT時代に対応した制度改革」に対する意見

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社団法人 情報サービス産業協会

「産業構造審議会情報経済部会 第1次提言(案)ネットワークインフラに関する競争環境の整備及びIT時代に対応した制度改革」に対する意見

電子契約法制

○ 意思表示が伝達されるスピードは速いことへの対応(契約成立時期の問題)

(意見)

民法では、隔地者間の契約は承諾の通知を発した時と定め(526条1項)、いわゆる「発信主義」を採用しているが、電子取引法制においては、対話者間はもとより隔地者間においても「到達主義」を採用すべきであり、本提言案の趣旨に賛成する。

(理由)

  • 電子契約においては意思表示の伝達が速く、発信と到達との時間的間隔はわずかであり、対話者と隔地者を区別すべき実質があまりない。従って、民法の意思表示の原則に則り「到達主義」を採用することでよく(97条1項)、あえて契約における承諾のみを例外とする(526条1項)合理性に乏しい。
  • 電子契約の進展によって、個人の国外取引が飛躍的に容易になり、それにつれて国際私法上の問題が増加すると考えられることから取引法制の国際化傾向を踏まえた立法政策が期待されるところである。従って、ウィーン動産売買条約、米国UCITA等に倣い、「到達主義」を採用すべきである。

(問題点)

立法政策上、意思表示の不到達のリスクをどちらが負担するのが合理的かという問題は、電子取引固有の問題ではなく、契約法一般(民法)の問題ではないかとの疑問がある。
隔地者間の契約は、承諾の通知を発した時(526条1項)と定めることに積極的な合理性を見出し難いというのであれば(現に526条1項は解釈により適用範囲が絞られている。)、電子取引法制における特則として、意思表示の原則の例外の例外という、わかりにくい3層構造を採用することは避けるべきであって、素直に民法の改正(526条1項の削除)を検討するのが筋ではないか。
ちなみにFAXによる申し込みの不到達のリスクは、実際上は発信者が負っているのではなかろうか。民法の改正は法案に至る道のりが長いというデメリットはあっても、到達主義一本化による改正自体の混乱はそれほど懸念すべき問題ではないように思われる。
法律全体としてシンプルで、かつ国際的にも協調性がある方がよいと思われる。


○ 操作ミス等への対応

(意見)

電子契約においては、クリックミス等誤った意思表示(表示行為の錯誤)の法的効果については、相手方の確認機会の提供(確認画面等)の有無に着目して処理すべきものと考える。
すなわち、電子取引上の錯誤無効の主張は、確認機会の提供がなかったことを要件とすべきである。

(理由)

  • 米国:統一電子取引法(UETA(1999))、EU:電子商取引指令(2000)などと同様の規定が望ましいから。
  • 相手方(一般には事業者)に対して、確認画面等を作成させるインセンティブを与えるため(錯誤無効の主張の防止策として)。

(問題点)

  • 上記の意見は、BtoCを念頭においたものであり、消費者保護の視点からの発想である。従って、さらに商行為に限定する規定とするかどうかという議論があり得る。
  • 事業者側の電子上の目録の表示等が申込みの誘引にすぎない場合は、確認画面を必要としないのか。
  • 実際上事業者側から電子取引法制上の錯誤無効は主張し得ないということになるのか。そうであれば、それは消費者保護法が規定すべき内容ではないか。
  • 民法の錯誤(95条)との関係が問題となる。ここで検討している錯誤は、いわゆる「表示行為の錯誤」についてであり、いわゆる「動機の錯誤」の問題については、一般法である民法の適用があるのかどうか判然としない可能性が残る。
  • 電子取引法制上の錯誤の規定は、民法上の錯誤の特則として、民法95条の適用を廃除するのか。
  • 本問題は、取引の当事者間を念頭においているが、電子取引の特徴は、その背後に多くの取引が連鎖しているところにあり、しかも、コンピュータを介して自動的かつ瞬時に取引が成立している可能性がある。例えば、消費者がクリックして注文した情報は、相手方である電子上の小売店に到達したと同時に、メーカーに発注されるようなシステムも存在している。前者の取引の無効は、後続する取引に連鎖的に影響するのであって、時間的間隔があった従来の取引での法的処理と異なる問題が存在し得る。
    瞬時に後続し連鎖するいくつかの自動的な取引において、契約の成立を信頼して履行に着手していた場合(コンテンツ配信であれば履行すら完了し得る。)、そのコスト負担の処理について、別途、産業政策的見地検討しておく必要があるのではないか。

○ 本人確認が難しいことへの対応(なりすましの問題)

(意見)

国連国際商取引法委員会(UNCITRAL:電子商取引モデル法(1996))にそった形で電子取引における民法の解釈を明確化することが望ましいと考える。
(事前に合意した本人確認手続を適切に利用したといった場合には、受信者が相当な注意を払えばデータメッセージが本人のものではないことがわかり、又はわかるべきだった場合等を除き、本人に効果が帰属する。)


仲介者責任法制

(意見)

「仲介者がどのような場合にどのような範囲の責任を負うのかを明確化する必要がある」との提言案には賛成する。ただし、実際にプロバイダやデータセンターなどの事業を行っている者が事実上複数の法制が適用されることで混乱することがないよう適用関係を整理することが前提である。


情報財取引法制

(瑕疵担保責任に関する論点)

「情報財においては、有体物とは異なって、いわゆる文字化けといった、本質的には使用に支障を来さないレベルのバグがほぼ不可避的に生じるが、民法の瑕疵担保責任のルールに従えば、そのようなものについても瑕疵として事業者が責任を問われかねないが、これをどう考えるか」

(意見)

情報財取引法制においては、情報財としてソフトウェアやデジタルコンテンツを包括的に取り扱っているが、バグの問題は、機能的情報であるソフトウェア・プログラムに限定すべきであり、単に書籍を電子化したようなデジタルコンテンツを同一に扱うことには問題があると思われる。
また、本法制により、バグの問題を規定した場合、BtoCの取引も、BtoBの取引にも一律に適用されることになる。前者の場合はパッケージやネットワークを通じて完成品を消費者に供給するケースが典型例であり、後者はカスタムメイド型ソフトウェア取引が典型例であって、それは完成品の供給というよりもユーザ・ベンダの共同開発という側面が強い。従って、自ずとバグに対する考え方も法的対応のあり方も異なるものと思われる。本法制下でバグに対する規定を設けるのであれば、プログラムとコンテンツ、パッケージ系ソフトウェアとカスタムメイド系ソフトウェアとを区分してその特徴を踏まえた規定とすべきである。


(3)消費者の信頼を確立するためのルール整備

個人情報保護

(意見)

意見は、別途、内閣内政審議室に意見書を提出した通りである(下記URL参照 https://www.jisa.or.jp/pdata/opnion/000602-28-j.htm)。

なお、以下の点を追加する。

「行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律」はもとより各自治体の個人情報保護条例、日本工業規格(JIS Q 15001)、現在検討中の「個人情報保護基本法大綱案」においても「個人情報」を、いわゆる個人識別可能情報であると定義する。この定義においては、「個人の識別が可能か否か」という簡明なメルクマールでその外延を確定するため、人権に基礎を置く個人情報から、単なるデータとして評価し得る個人情報まで多様な価値を内包することになる。個人識別可能情報は、「プライバシー」概念の多義性による問題を回避して、とりあえず議論の射程を画するという長所がある反面で、やはり問題の本質を先送りしたにすぎないという致命的な短所を有しているということができる。
個人情報という平板な概念のみでは、簡単な原則論だけならともかく、行政調査権、情報開示・変更・削除請求権、刑事罰などを規定することは困難である。例えば、他人の生活をモデルとした小説の公表や、ニュースの報道などにおいては、「表現の自由」、「報道の自由」といった価値と「個人情報の保護」という価値との調整を行う手がかりを導くことはできない。人権対人権との調整とは限らないからである。
また、一般事業者の取り扱う様々な情報には、議事録や会議の録音テープなどがあるが、こうした会議資料は、出席者の氏名等をキーワードとして捉え直したとたんに「個人情報」と評価されることになる。名簿等のように個人情報としての特徴が際立っている典型例を除くと、個人情報とはある情報の一つの側面を述べているにすぎず、あらゆる情報は「個人識別可能性」を有し得るといえる。こうした現実の情報は、通常、本人以外の者の個人情報や会社の秘密情報、顧客との守秘義務に関わる情報などと混在しており、個人情報の開示請求に対応するに際しては、開示・非開示の決定、開示する場合の開示範囲の確定という困難な決定に直面しなくてはならない。
従って、個人情報保護に関する規定を置くに際しては、少なくとも「なぜ個人情報を保護しなければならないのか」という基本思想について共通の認識を確立し、「どのような原理ないし基準で調整すべきか」といった問題に一定の指針を与えるものでなくてはならない。
もし、ここにサイバー空間というものがあるとして、それがリアル空間と異なる特徴を有し、そこに新たな法制度を必要としているならば、今は、まさに法思想、法哲学が求められているというべきである。


(2)競争ルールの運用強化

その他(取引上の優越的地位の濫用に関するケース)

(意見)

従来の下請法などの規制(発想)を情報サービス取引に適用することがないようにしていただきたい。

電子取引を背景で支えているインフラは情報システムであり、その委託開発取引はユーザ・元請間、元請・一次下請間、一次下請・二次下請間というような階層的な取引構造によって行われている。一般に、ユーザ・元請間で不公正な取引があった場合は、その問題は後続する下請契約に引き継がれていく構造にある。従って、優越的な地位の濫用等を一次下請・二次下請間の取引など部分的な取引において問題にしても構造的な解決に資することは少ない。契約の適正化は、あくまでも全体として実現すべきであり、下請規制を導入することには反対する。


その他(本第1次提言案以外の事項について)

○ 情報システム開発契約の典型契約創設の必要性

(意見)

ITに関連した取引は判例も少なく、商慣習も定かではなく、民法の典型契約(デフォルト・ルール)においても紛争解決の規範を明確に定立し得ないこともあり得る。この点は、西暦2000年問題におけるメーカ・ベンダの契約責任の検討において一部顕在化した問題でもある。従って、予見可能性を担保し取引の安全を計るとともに、情報システム開発契約の適正化を促進するためにも情報システム開発契約についての典型契約を創設すべきものと考える。

例えば、商法上には運送営業、倉庫営業、保険、海商についての規定が存在する。IT時代においては、IT関連の契約類型についてもその特徴を踏まえた民法の特別法(任意法規)が必要であると考える。

以上

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