第1回 財務税制部会

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令和4年6月8日、第1回財務税制部会(部会長:山崎徹也日鉄ソリューションズ(株) 財務部単体決算グループ グループリーダー)をオンラインで開催した。出席者は13名。

今回は令和4年度財務税制部会企画案の検討を議題として開催した。事務局より提示したテーマ案は次のとおり。

1.収益認識会計基準適用フォローアップ調査の実施に関する検討
 2.政策税制活用状況調査の実施に関する検討
 3.サスティナビリティ基準対応の必要性に関する検討

1. 収益認識会計基準適用フォローアップ調査の実施に関する検討について

 収益認識会計基準は昨年度が適用初年度であった。当部会では、工事進行基準の適用が経営課題となった工事契約会計基準への対応時よりもさらに、損益計算書のトップラインである売上計上ルールである本基準が情報サービス企業の経営に与えるインパクトは非常に大きいとの認識から、日本基準の開発に先立つIFRS第15号の公開草案開発当時より、10年余りの長きにわたり、意見発出、ガイドライン策定、論点整理公開等多彩な切り口で対応を続けてきた。

 これらを実施した立場からは、収益認識会計基準適用開始後に従前の課題の克服状況や積み残した課題の有無等を調査し、会計基準設定主体や規制当局への意見発出に繋げることが必要であるとの認識により、テーマ案として諮った。

委員からは、テーマのニーズはあるが、調査内容を吟味する必要があるので、いったん部会内で論点を出して意見交換を実施し、その結果をもとに調査の実施を判断することとなった。


2.政策税制活用状況調査の実施に関する検討

本テーマは昨年第2回の部会で検討しているので、まず事務局からその振り返りの説明を行った。

近年の税制改正では、デジタル化推進に係る措置が強化されてきた。当部会で取りまとめた要望でも、長年の課題である研究開発促進税制の見直しはもとより、DX投資促進税制、5G投資促進税制、オープンイノベーション投資促進税制等について創設あるいは拡充延長を掲げ毎秋の政府与党への要望活動を通じて実現してきた。

しかし、これらの政策税制は実際に活用されているのであろうか。特に情報サービス産業の場合は、自社内での適用はもちろんのこと、デジタル化推進の旗振り役としての立場から、顧客企業への営業提案にもこれら税制の活用を織り込むことが期待される。仮に、これらが活用されていないのであれば、より活用が進むように制度のリメイクを要望したり、活用支援策を講じる必要があるのではなかろうか。

以上の認識からテーマを諮った。なお、本テーマ案の検討では、政策税制について(1)社内での活用(2)顧客への提案に分ける考えが事務局より示された。

この結果、(1)社内での活用については、政策税制に留まらず、租税制度について実務者の視点から広く見直すべきものを洗い出すこととなった。 また、(2)顧客への提案については、財務経理部門の所掌範囲を超えることから、当部会の上位組織であるビジネス委員会に税制改正要望項目の洗い出しを狙いとして課題を提起し、実態とニーズの把握を行うこととなった。


3.サスティナビリティ基準対応の必要性に関する検討

経済産業省は、中長期投資に関する国際的な議論を背景として、2017年に「価値協創のための統合開示・対話ガイダンス-ESG・非財務情報と無形資産投資-」を公表した。これは、従来の財務報告に留まらない、企業と投資家との間の対話や情報開示の質を高める統合報告の基本的枠組みであった。これを嚆矢として、我が国の主要な上場企業の間では統合報告を開示する流れが鮮明となった。これは海外の統合開示基準開発の流れをふまえたものであったが、その推進者であるSASB(Sustainability Accounting Standards Board) とIIRC(International Integrated Reporting Council) が昨年合併し、VRF(Value Reporting Foudation) が発足した。直近では、世界的な脱炭素意識の高まりによるESG投資の拡大を背景として、IFRS財団がVRFの支援を受けて気候変動基準の開発を推進している。この動きについては、当部会でも昨年度第3回会合で経済産業省の業界団体別ヒアリングにアドホックに協力してきたところである。

一方、政府は、現政権発足時より四半期開示の見直しを提起してきたが、これに留まらず、新しい資本主義の実現に向けて、人的資本への投資支援を打ち出している 。制度開示においても、「費用としての人件費から、資産としての人的投資」への変革を進め、非財務情報を見える化し、株主との意思疎通を強化していくことが必要であるとしている 。

当産業は、いうまでもなく人が資本の産業である。本年4月にスタートした東証の新市場区分では、JISA上場正会員78社中、49社が他市場よりも高度なガパナンス水準の具備が求められるプライム市場に移行しており、人的資本経営の観点からは、他業種企業よりも積極的な取組が期待される。

以上をふまえると、当部会としては、内容が”非財務”ではあるものの、経理財務部門が最終的に有価証券報告書の開示への落とし込みの実務に関わることから、検討体制の整備を考える時期にきているのではないかとの課題認識からテーマ案とされた。

委員からは、有価証券報告書の開示に関わるテーマではあるが、会員企業の社内では、財務経理部門が業務を担当していないので、当部会とは別組織を立てて検討すべきではないかとの意見が支配的であった。

また、別組織を立てるとしても、テーマが気候変動、人的資本などと業務担当部署が横断的になることから委員の委嘱が難しいとの意見もあった。統合報告書を発行している会員の委員からは、統合報告書はIR部門が手掛けているとの意見があったが、統合報告書を発行している企業はまだ限られている。

結論としては、本年度は当部会下部にWGを設置する等の措置は講じずに、意見発出など対応の必要が生じた場合にその都度関係者を集めることとなった。

(田中)

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