
~JISA版NTCプロジェクト 第4期 群馬・多文化共生への挑戦~
技術力だけでは解決できない社会課題がある。JISA人材委員会(委員長:松田信之)が主催する「JISA版NTCプロジェクト」は、トップエンジニアが「課題発見力」と「ビジネス創出力」を磨く実践型プログラムです。
第4期の舞台も群馬県。5ヶ月間のフィールドワークを経て、エンジニアたちが導き出した「多文化共生」の新たな解を紹介します。
「今までは『どう作るか(How)』ばかり考えていた。しかし、理想と現実のギャップである『課題(Why)』自体を定義することの重要性を痛感した」(受講生コメントより)
<第4期プロジェクト成果発表>
テーマ:外国人住民⇔地域を双方向に結ぶ情報プラットフォーム【優秀賞】
行政情報が「届かない」課題に対し、パーソナライズされた情報をプッシュ通知で受動的に届けるプラットフォーム。「AIチャットボット」による24時間相談と、「ユーザーコミュニティ」による相互扶助をハイブリッドで提供し、孤立を防ぎます。
松田委員長論評:
生成AIによる次世代デジタル技術と人間系支援を融合させ、課題を包括的に解決する点において高く評価された。評価の理由は、主に以下の三点である。
第一に、生成AI活用による情報アクセスの抜本的改善である。 従来の行政情報提供には、外国人住民に「知られていない」、あるいは「能動的に探さなければたどり着けない」という大きな壁があった。これに対し「MUSUBIME」は、ユーザー属性に合わせたプッシュ通知により、受動的な情報到達を実現。「知らなくても、探せなくても制度を使える」状態を創出し、情報伝達の課題を根本から解決する。 また、AIチャットボットによる24時間多言語対応は、平日日中に限定されていた行政相談の「時間・場所・言語の制約」を克服するものである。個に深く寄り添い、いつでもアクセス可能なこの仕組みは、NRIが提唱する「デプスエコノミー」※にも通じる、顧客サポートの進化形と言える。
第二に、生成AIとコミュニティによる人間系支援のハイブリッドモデルの構築である。 AIでは解決が難しい相談や、人間的な共感を要する場面においては、「ユーザーコミュニティ」での相互扶助や行政への「相談取次ぎ」を通じ、シームレスに人による支援へとエスカレーションされる。この仕組みは外国人住民の孤立を防ぎ、安心して日本で暮らせる環境を担保する。
第三に、自治体側へのメリットである。 プラットフォームを通じて収集された外国人住民の「声」や「相談傾向」を可視化し、ナレッジデータベースとして蓄積できる点は大きい。これらのデータは、根拠に基づいた多文化共生施策の検討を可能にし、行政側の相談対応の効率化と政策立案能力の向上に寄与する。
「MUSUBIME」は、AI技術による効率化と、人が担うべき「安心感・共生」の価値を両立させた提案であり、多文化共生社会の実現に向けた次世代型情報プラットフォームモデルとして、評価に値する。よって優秀賞にて賞揚する。
※https://www.nri.com/jp/knowledge/report/20250512_1.html
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テーマ:多文化共生を阻む“見えないコスト”とは? ~その負担、必要?~【人材委員長賞】
技能実習生の失踪原因を個人の資質ではなく、「来日前の多額の借金」という構造的欠陥(見えないコスト)に特定。複雑な仲介者を減らし、直接雇用を促進するマッチングプラットフォームを提案しました。
松田委員長論評:
表面的な課題解決にとどまらず、社会構造の深層に潜む「本質的な機会」を捉えた点で、高く評価できる。
「ベトナム人技能実習生の失踪」という社会問題に対し、その背後にある「経済的な構造欠陥」にメスを入れた。 彼らは、失踪の原因を個人の資質に帰結させるのではなく、「来日前の多額の借金(平均約67万円)」と「失踪率」の相関関係をデータに基づき明らかにし、不透明な仲介者への支払いが借金の主要因となっている構造(見えないコスト)を可視化した。
審査員からは「問題のターゲットが大きすぎる」という指摘もあったが、裏を返せば、既存のシステムが抱える矛盾がいかに根深く、解決した際のインパクトの大きさを示している。ISO56002では、イノベーション・マネジメントの出発点として「機会の特定」が位置づけられているが、Aチームの取り組みは、このプロセスを丹念に実践した事例である。
本チームのプロジェクトは、確かに一朝一夕で実現可能な規模ではないかもしれない。しかし、複雑な社会課題の本質(見えないコスト)を直視し、既存の枠組みを超えた解決策を模索したその姿勢は、NTCプロジェクトが目指すものの一つであり、人材委員長賞として賞揚する。
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テーマ:「食」から始める多文化共生
多文化共生に関心がない層に対し、心理的ハードルの低い「食」を入り口にアプローチ。ガチャ機能「もぐパス」でランダムに外国料理店へ誘導し、地域通貨と連携することで、偶発的な異文化交流と地域経済活性化を狙います。
松田委員長論評:
群馬県民が抱える多文化共生への「無関心」という課題に対し、誰もが親しみやすい「食」を切り口として解決を図った意欲作である。審査員からは、以下の着眼点と実現可能性が高く評価された。
•「食」という心理的ハードルの低さ
「イベントへの参加はハードルが高いが、食事なら行く」という心理を巧みに突き、無関心層を振り向かせるフックとして機能する。
•子育て世代への戦略的なターゲティング
30代〜40代のファミリー層にターゲットを絞り、子供たちが自然な形で多文化に触れる機会を創出している点が良い。
•既存インフラ(地域通貨)の活用による実現性
決済システムをゼロから構築せず、地域通貨と連携することで、開発コストを抑制しつつ、地域経済活性化のメリットも提供できる。
•偶発的な出会いの創出
「もぐパス」により、ユーザーをランダムに店舗へ誘導し、偶発的な異文化接触の機会を創出している。
一方で、効果の深さと運用面について以下の懸念が示された。
•「食べるだけ」で終わる懸念(最大の課題)
単に食事をするだけでは、相互理解や深い交流には至らない。現地の言葉で『ありがとう』を伝えるアイデアは、それ以上の対話を生むかが不明。
•店舗側の運用負担
店員がアプリを確認してスタンプを付与するなどのオペレーションは、飲食店にとって負担となる。
•地域通貨の普及率への依存
地域通貨が普及していないエリアや層に対してはサービスが届かない。
「多文化共生の入り口」としてのデザインは非常に優れているが、「入り口(食事)」から「対話・理解」へ踏み込ませるための具体的な仕組みが欲しかった。
課題探索・解決プログラム最終発表
<JISA版NTCプロジェクト第4期カリキュラム>
AIがコードを書く時代、エンジニアの価値は「何を作るか」を定義する力にシフトしています。JISAは、技術で社会をアップデートする「ITトップアスリート」を応援します。
<実施結果レポート>