SIer企業の現役社員が小説を発行~小説の執筆も仕事もチームで ②
(左から堀江さん、野村さん、山内さん、鎌田さん)
- 2020.8.19
- プロジェクト
Profile
- 山内さん
- ITインフラソリューション事業本部
- 文学部卒
- 2003年入社
- 野村さん
- 鉄鋼ソリューション事業部
- 人文学部卒
- 1992年入社
- 鎌田さん
- ITインフラソリューション事業本部
- 理工学部卒
- 2007年入社(転職)
- 堀江さん
- 技術本部システム研究開発センター
- 理学部卒
- 2002年入社
(もう一人の著者、藤田さんは欠席)
2020年7月に発行された矢野カリサ著の「HumanITy」。実はこの小説は、日鉄ソリューションズ(株)に勤務する5名の共著で、1作目の「シンギュラリティ」(2017年)以来毎年発行を重ね、SIer企業の社員ならではのリアルな仕事現場の描写も興味深い「HumanITy」はその4作目。執筆メンバーに、その経緯や裏側を聞いた。(全2回)
「HumanITy」:入社5年目のSE・花が異動した先は、とある製造業のアプリケーション開発部隊。日本の未来を大きく変える「全自動化システム」実現に向け、奮闘する花たちの行く手を阻むものとは・・・(帯より)
※著者名の「矢野カリサ」は、執筆メンバー5人の名前を1文字ずつ組み合わせたものです。
執筆も仕事と同じ進め方で
野村:制作は7月にスタートして、半年はひたすら何を書くかを議論していましたね。最初の2か月は小説のコンセプトを議論し、その後にプロット、つまりあらすじを作りました。プロットは、途中でボツになったものを含めれば、30〜40パターンは検討したんじゃないでしょうか。議論しながら固めていって、10月末ぐらいにいったん全ての流れができました。
ただ、その後も「やっぱりここはこうしたほうがいい」という部分が出てきて、最終的に書き始めたのが12月末。正月も小説を書いていた覚えがあります(笑)。
メンバーから出てくるいろんなアイデアをまとめるときは、この物語で何を伝えたいのか、という原点に立ち返ります。最初にコンセプトをしっかり決めておくことが大事で、それが軸として通っていれば、後々いろんな選択肢が出てきたときに、どれがコンセプトに沿っているのかをみんなで納得して判断しやすいんです。
松本(運営担当者):この進め方って、私たちの仕事と全く同じなんです。いろんな部署のいろんな技術を持つ人が集まって、どういうことをどのスケジュールでやるかを決めて設計し、各チームで役割分担をする。設計者以外のメンバーもプログラムを書けるようにしっかり共有して、困ったときは最初に立ち返る、というふうに。
小説づくりでは、人物像の作り込みや場所、季節といった設定を最初にかなり話し合いましたね。その段階では毎週1〜2時間はチャットやテレビ会議などで打ち合わせをしていました。
鎌田:分担して執筆しますが、あらかじめ誰がどのシーンを書くかは大まかには決めています。それぞれに得意な場面があるので、テクニカルな場面はこの人に、情景の描写はこの人に書いてほしい、と入れ替わることもあります。
堀江:最初に、ショートショートのような文章を書いて持ち寄るんです。そうすることで「書く」ということがどういうことなのかを実感できるし、誰がどんな文体でどんなシーンを得意としているのかが分かってきます。
野村:陰謀が関わるシーンはほとんど鎌田さんですね(笑)。
鎌田:私はたいていヒートアップしてしまうので、みんなにブレーキをかけてもらっていました。
松本:でも、鎌田さんのすごいところは、何度みんなからボツにされてもめげないところ(笑)。
鎌田:最初に議論をする中で、「作ったものを否定することが、その人の人格を否定することじゃない」ということをしっかり認識しましたから、私は自分が書いたものがボツになろうが、気にはならないです。
堀江:私は、技術的な描写に不自然なところがないか、私たちが実際に使っている技術として適切なのか、そのチェックを任されていました。
野村:私は、主に工場のシーンを書きました。出てくるシステムが結構古いのですが、それは私が関わったことがある会社がモデルになっています。自分が経験したことをベースに書けたので、結果的にそれが自分の得意分野と言えるかもしれません。
初参加でリーダーをさせてもらったのですが、私以外の3人は経験があるので、私はそのやり方にのっかりつつ、みんなが同じ方向に向かって進めるようにフォローをしていました。引っ張るというより、盛り上げるという感じです。
山内:登場人物のキャラクターを考えるときは、共通認識として有名人をあてはめて考えていました。私は、これまでドラマや映画を観てきた知識を活かして、よくその提案をしていました。このシーンはあの映画のこの場面のように、とか。
【キャラクター設定資料】
堀江:執筆で行き詰まったときは、メンバーに相談していました。すると「こうしたら?」というアイデアが出てくるんです。チームの良さですね。一人でこもって執筆するより、打ち合わせをするのが大事だなと感じました。
鎌田:でも、最後はいつもピンチです(笑)。みんなが書いたものを合体させると、「あれ!?」となる。
山内:「書いてみたら面白くなかった!」とか(笑)。書いてみないと分からないんですよね。
野村:「こんなキャラクターでこんなストーリーにしよう」という話をするのですが、実際に書いてみると、文体はもちろん、キャラクターのイメージが個々で少しずつ違って、調整が必要になったり、方向性がズレてしまって最初のコンセプトに立ち戻ったり。結局、書き上がったのはゴールデンウィーク明けでした。
原稿に対して修正が必要なポイントも、業務で使っているのと同じ課題管理表というフォーマットで管理して共有していました。対応状態のところに「完了」とか「対応中」と入力したり・・・IT会社っぽいですね。
松本:進捗管理やスケジュール管理も同様です。いつまでに提出しないといけないから、いつまでにレビューしましょう、とか。そういうノウハウがあるから、共同執筆がうまくいったのかもしれません。
鎌田:プロットも、あとで合体しやすいようにWordじゃなくExcelを使っていました。出版社の方が「Excel使うんですか!?」と驚いていましたね。
松本:普通は一人の作家さんが書くので、出版社の方はチームでの管理に慣れていないんです。みんなが当たり前のように課題管理表をExcelで作って、しっかり納期を守っているのを見て、「これがITのプロジェクトなんですね」と(笑)。
主人公は上司の一言で大きく成長。私の場合は・・・
鎌田:入社4年目の頃、ある先輩の下についたときは、営業の考え方やアクションの起こし方など、基礎から叩き込んでもらいました。ある程度一人立ちできるようになり、次の壁にぶつかっていた時期で、改めて教え直してもらえたことがありがたかったです。愛のある厳しさでしたね。
堀江:入社して事業部に配属されたばかりの頃の上司の影響が大きいです。新しく取り扱う製品や技術をお客様に提案する際に、信頼できる一次情報を根拠に伝えるという技術者としてのあり方を教わりました。検索技術が発達し、Webでキーワード検索をすれば何万という情報が出てきますが、それをそのままお客様に伝えするのではSEとしての価値はありません。オフィシャルな情報ではない場合は必要に応じて問い合わせる、場合によってはソースコードを見て動作確認までして、お客様に理解できる形で説明することが大事だと刷り込まれ、それが今でも私の基本スタンスになっています。
野村:私も若い頃は上司の影響をかなり受けました。私の上司は小説に出てくるベテランSEと良く似た人でした。SEとしてシステム開発をしていると、どうしても作ることばかりに集中してしまいがち。でも、お客様のことをちゃんと考えないといけないし、「お客様がこう言っているから」と鵜呑みにするのではなく、実際のデータを確認して事実を検証するように、とよく言われました。
山内:私は先輩から「仕事は早く、雑でいい」と教わりました。学生時代はどうしても正解を求めてしまうし、完璧主義者できっちりきれいに見せようとしていましたが、それよりもまずは大枠を見てもらって仕事を進めるほうがスピーディーに進むよ、と。仕事の目的は何かを見極めることの大切さを考えさせられましたね。
プロジェクトを終えて
鎌田:書きたいことがどんどん増えているので、早く次回作を作りたいですね。下調べをして緻密なプロットを作り上げていくような本を書いてみたいです。
堀江:まずは無事に本を世に出すことができ、一安心です。知人や親戚からの感想を聞くのが楽しみですね。これまで技術系のシーンを監修することが多く、4作もやってくるとだんだん技術ネタも尽きているのですが(笑)、書きたいという気持ちはあるので、次回作に向けて構想を練っています。
野村:家族に出来上がった本を見せたり、自分のFacebookで本を宣伝すると「すごいね」と言ってもらえるので、それがうれしいですね。書店に並んでいるのを見たときは感動しました。周りからの反応もいいし、やってよかったと思います。
山内:今は本ができあがった達成感でいっぱいです。ゆくゆく映像化されないかなと思っています。
(おわり)
#IT業界#ワークライフバランス
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