制度利用の受け入れ体制の整備

制度利用者への仕事の割り振り

制度利用にともなって仕事内容が変わるのかどうか、変わるとするとどのように変わるのか、といった点は、制度利用者にとって重大な関心事です。
制度利用者に対する仕事の割り振りについては、多様な働き方を実施する多くの企業が悩んでいます。制度利用者をマネジメント業務から外したり、客先常駐者の場合は客先から引き上げたりする事例もみられます。制度利用者の制約条件や、顧客の意向によっては、このような配慮が必要となる場合もあるでしょう。
ただし、割り振られる仕事が限定的になり過ぎると、時には制度利用者のモラールやスキルの低下につながり、さらに仕事の幅を狭めるといった悪循環をもたらすことが懸念されます。このような悪循環に陥ると、長期間にわたって効果的な制度運用を行うことが難しくなってしまいます。
制度利用の実績が多い企業では、制度利用者の仕事を極力限定せず、本人の「スキル」本位で仕事を割り振るケースが少なくありません。そして、長期的には、その方が制度の運用にプラスの効果をもたらしているように見受けられます。もちろん、「スキル」本位で仕事を割り振る大前提として、制度利用者の働き方の制約条件を考慮する必要があります。例えば、スケジュールにある程度余裕があるプロジェクトに配置する、制度利用者と同レベル以上のスキルを持つメンバーが支援できる体制を整える、といった配慮が重要でしょう。
なお、制度利用前のプロジェクトや職場では、制度利用者の働き方の制約条件に配慮することがどうしても難しい場合には、異動・配置転換という選択肢も視野に入れて、人事担当者、マネジャー、本人の間で十分に話し合うことも必要となるでしょう。
企業が、制度利用者に対する仕事の割り振りの仕組みをある程度示すことができれば、制度利用を希望する者や、制度利用者のマネジャーも、制度利用申請から復帰までの道筋をイメージできるようになるでしょう。そういう意味で、制度利用にともなう仕事の割り振りの仕組みの検討は、制度利用の受け入れ体制整備の第一歩だといえます。

マネジャーの意識改革

経営トップが制度の意義を理解し支援している企業や、制度利用の実績が多い企業では、プロジェクト・マネジャーも、制度利用者の参画を比較的自然と受け入れている傾向がありますが、それ以外の企業では、制度利用者をプロジェクトに受け入れるのは、プロジェクト運営上ハンデになると捉えているマネジャーが少なくありません。制度利用者の職場の従業員、特にマネジャーが、制度利用者を自然と受け入れられるよう意識を改革していくことは、制度利用の受け入れ体制を整える上で最も重要なポイントの一つとなるでしょう。
制度利用者は時間や場所が制限された働き方をしているわけですから、通常の勤務者と比べると無理が利かない面もあります。マネジャーとしては、予めそのことを踏まえ、通常勤務者の担当業務以上に、制度利用者の担当する業務の進捗状況に留意する等、働き方の制約条件を意識したプロジェクト運営を行う必要があります。
また、マネジャーは制度利用に対して周囲のメンバーや顧客に理解を求め、磐石な協力体制を築く必要があります。
こうした高度なプロジェクト運営を行う必要があることを、マネジャーがハンデだと捉えるか、マネジメント能力を向上させる好機だと捉えるかで、制度の利用しやすさは大きく異なります。ただ、ハンデだと捉えている向きが大きい場合、そのような意識を改革するには、それなりの時間ときっかけが必要になります。制度利用を所与のものとして受け入れる風土を企業全体に醸成するために、制度利用者を受け入れたプロジェクトに対して何らかの配慮を検討することも有効かもしれません。

制度利用に向けた従業員の自律意識の形成

制度利用の受け入れ体制を整えていく上では、自分の仕事に責任を持ち、制度を利用しつつ生産性の向上を目指すというような、利用者自身の自律意識も重要です。
ただ、こうした自律意識はにわかに身に付くものではありません。制度を利用するずっと前の段階から、自律意識を醸成していく必要があります。
制度の利用の有無にかかわらず、自律意識は全従業員にとって重要なものですが、普段から自律意識をもって仕事をすることによって、顧客にもプロジェクト・メンバーにも信頼が厚くなり、高度なスキルも身につけられ、多様な働き方を受け入れられやすい素地が自然と作られることでしょう。企業としては、自律意識をもって仕事に取り組むことの重要性を、普段から従業員に教育しておくことが有益だと考えられます。

制度運用のアドバイス