複数就業−導入及び見直しについて

対象者

「複数就業」とは、特定の企業に雇用されながら、個人事業主または他企業の従業員として就業し収入を得る働き方(「副業」・「兼業」)です。
企業が複数就業を認める場合、短時間勤務を前提として認めるパターンと、現行の勤務(フルタイム勤務)を前提として認めるパターンが考えられます。
日本では、複数就業を認める事例は多くありませんが、複数就業への従業員の関心は近年強くなってきています。
複数就業の導入目的としては、従業員のキャリア形成支援、高度専門人材の確保・活用、従業員の転職・独立の支援、賃金の補完等が考えられます。制度の目的に応じて、対象者を検討する必要があるでしょう。
また、複数就業の導入にあたっては、自社の市場の侵食、社外業務遂行のための社内リソースの利用、本業の生産性の低下、社内情報の流出といった懸念点もあります。こういった事態にならないよう、対象者の設定にあたっては、業務内容や能力(業務遂行能力や管理能力等)についても考慮する必要があるでしょう。

複数就業導入のメリットと懸念事項(事例)
複数就業の目的別の対象層(事例)

適用期間

複数就業の適用期間は、制度導入の目的・対象者の設定によって変わってくると考えられます。目的・対象者の設定に応じて、適用期間を検討する必要があります。
ただ、本業、副業ともに、業務の内容や体制は刻々と変化する可能性が高いことから、複数就業の適用期間を一律的に設定することは現実的ではないかもしれません。規程としては大まかな原則だけを定義し、運用の中で個別事情に応じて適用期間を決定していくという方法もあるでしょう。

適用内容

週のうち毎日複数就業を認めるか、あるいは週1〜2日に限定するかといった制度の適用内容を検討する必要があります。これも、業務内容によって決まるものなので、一律的な設定は難しい可能性が高いでしょう。個別事情に応じて適用内容を詰めていくというやり方が現実的かもしれません。

適用期間中の労働条件等

短時間勤務を前提として複数就業を認めるか、通常勤務(フルタイム)を前提として複数就業を認めるか、によって適用期間中の労働条件は全く異なってくるでしょう。
また、本業と副業の双方において勤務管理が必要な就業形態で勤務する場合には、厳密には勤務時間の通算管理等が求められることにも留意する必要があります。

  • 賃金

  • 通常勤務が前提の場合は基本的に労働条件の変更はないと考えられますが、複数就業の適用にともなって業務の負荷が軽減されるといった事情があれば、その分を賃金に反映させるかどうか検討する必要があります。
    短時間勤務が前提の場合、制度適用期間中の賃金については、賃金の性格を考慮しつつ取り扱いを検討する必要があります。基本給については、制度適用者が勤務していない時間分をカットする事例が多いようです。一方、成果に応じて支給されている賞与等については、純粋に成果でもって判断し、必ずしもカットしないということも考えられます。その他、家族手当、通勤手当等の手当がある場合は、支給の目的に照らして、それぞれの取り扱いを検討してみてください。
     また、退職金について、勤続年数によって支給額が異なる場合には、勤続年数に制度適用期間を通算するかどうかを検討する必要があります。

  • 評価

  • 短時間勤務で複数就業を認めるか、フルタイムで認めるかによって、評価の基準も変わってくるかもしれません。
    短時間勤務の場合、勤務時間が短いということだけをもって、制度適用者の評価が低くなるとしたら、生産性の高い制度適用者の納得感は得られず、制度を利用しつつ生産性を維持・向上させようというインセンティブがそがれてしまう懸念があります。
    一方、制度利用にともない仕事内容が制限されてしまう場合には、通常勤務者と評価方法を変えることも考えられます(例えば、後輩育成などの人材育成、マネジメントといった役割が免除される場合には、これらの項目を評価対象項目から外す等)。その場合には、制度利用中の評価に対して利用希望者の納得を得られるように、制度利用前に会社として、きっちりと評価の基準を示しておく必要があるでしょう。
    また制度利用者のフォローに周囲のメンバーの力が必要な場合には、その負担についても、周囲のメンバーの評価に反映するよう配慮することが必要でしょう。
    企業の中に、成果の適正な評価方法が確立され、成果を重視する姿勢が広がっていくことは、多様な働き方が普及するための最も重要なインフラといえます。貴社の評価体系のあり方が、多様な働き方を選択する従業員を想定したものになっているかどうか、チェックしてみてください。

  • 福利厚生

  • 短時間勤務前提の複数就業の場合には、福利厚生制度について、通常のフルタイム勤務者と制度利用者で、異なる取り扱いをすべきものがあるかどうか、整理してみましょう。

  • 社会保険

  • 複数就業の適用者が、本業先、副業先の双方において雇用される場合の社会保険の取り扱いは下表のようになります。短時間勤務前提の複数就業における社会保険の適用区分については、短時間勤務制度の社会保険に関する説明部分をご参照下さい。

■ 複数就業の場合の社会保険の取り扱い

保険料
給付
労災保険 A社、B社の双方が、それぞれ支払った賃金に応じて保険料を負担する 事故が発生した事業場の賃金のみを基礎として給付基礎日額が算定されるため、A社での事故によりB社も休業した場合であっても、A社に係る労災保険によりA社の賃金に基づき休業補償給付が支給される(ただし、労災保険からの支給は休業4日目からで、休業3日目までについてはA社に休業補償義務がある)
この場合、A社の所定労働日数に関係なく、労働することができない全期間について給付がなされる
通勤災害に関しては、自宅からA社のみならず、A社とB社間の移動も通勤途上とみなされる(労働者が向かっている先の企業の労災保険が適用される)
雇用保険 主として生計を維持する賃金を受ける事業所(通常はA社)においてだけ保険関係が成立し、そこが保険料を負担する A社を離職しても、B社で雇用保険が適用されれば、B社を離職した時点で、A社とB社を通算した勤続年数とB社の賃金をもとに算定された基本手当が支給される
A社を離職し、B社で雇用保険が適用されない場合は、失業にあたらないため基本手当は支給されない(ただし、1年以内にB社を離職した場合には、A社の基本手当が1年の期限内で支給される)
厚生年金保険/
健康保険
【A社、B社の双方で被用者保険が適用される場合】
A社、B社の賃金を通算した額により標準報酬月額が決定される
A社、B社のいずれを保険者とするかについて、保険者選択届が必要となる
保険料はA社、B社が、それぞれの賃金額に応じて按分して負担する
(通算や按分は管轄の社会保険事務所間で担当)
A社、B社の賃金を通算した額により決定された標準報酬月額をもとに、給付額が決定される
注1:A社を本業の勤務先、B社を副業の勤務先とする。
注2:厚生年金保険、健康保険が、A社、B社の双方で適用されるケースは実際には希有だと考えられる。
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