
対象者
ジョブ・シェアリングとは、「フルタイム労働者1人分の職務を特定の2人で労働時間を分担しつつ行い、分担した時間について各自責任を負うのではなく、職務の成果について共同で責任を負い、評価・処遇についても2人セットで受ける(厚生労働省委託調査「ワークシェアリングに関する調査研究報告書」(2001年4月))」といった働き方を指し、日本ではあまり事例がありませんが、欧米では多様な働き方の一つとして広く認知されています。
2人で1人分の仕事を分けるということですので、制度の対象者は短時間勤務になります。したがって、企業としてジョブ・シェアリングという制度を検討する前に、まず、短時間勤務制度について、検討を行う必要があります。
次に、短時間勤務制度の適用者の中から、どういう人を対象に、ジョブ・シェアリングを適用していくか、ということを検討します。
ジョブ・シェアリングを適用しても、1人で1人分の仕事を担当する場合と同等に、あるいはそれ以上に生産性が上がるようにするためには、同じような職種、同等のスキルを保持するペアを対象にする必要があるでしょう。育児・介護の必要性が生じた場合、仕事以外の自己啓発に時間をとられる場合、あるいは高齢になった場合にジョブ・シェアリングを認める等、適用事由はいろいろと考えられますが、1人の事情だけではジョブ・シェアリングは成立しないので、本人同士でペアを作った上で制度の適用を申請してもらう等、ペアを成立させるための適用ルールと仕組みを十分に検討することが重要でしょう。
適用期間
ジョブ・シェアリングの適用期間は、適用事由によって変わってくると考えられます。また、ジョブ・シェアリングの一方の者が適用を終了すれば、自然とジョブ・シェアリングは解消になってしまいます。
ジョブ・シェアリングの適用期間については、短時間勤務制度の適用期間との整合性、ペアが解消した場合の対応等についても検討しておく必要があります。
適用内容
1人は週2日勤務、もう1人は週3日勤務といったような勤務日の設定や、引き継ぎの方法等について、ある程度原則を決めておく必要があります。
適用期間中の労働条件等
- 賃金
制度適用期間中の賃金については、賃金の性格を考慮しつつ取り扱いを検討する必要があります。基本給については、制度適用者が勤務していない時間分をカットする事例が多いようです。一方、成果に応じて支給されている賞与等については、純粋に成果でもって判断し、必ずしもカットしないということも考えられます。その他、家族手当、通勤手当等の手当がある場合は、支給の目的に照らして、それぞれの取り扱いを検討してみてください。
また、退職金について、勤続年数によって支給額が異なる場合には、勤続年数に制度適用期間を通算するかどうかを検討する必要があります。
- 評価
ジョブ・シェアリングは、厳密には、評価についても2人セットで受けるという働き方と定義されています。
ただ、現実には、ペア2人の間の業務配分が偏ってしまう可能性もあります。実際の評価をどのように行うか、十分に検討する必要があります。例えば、能力はそれぞれに評価し、業績は2人セットで評価するというやり方も考えられます。
ジョブ・シェアリングの適用者について、勤務時間が短いということだけをもって、制度適用者の評価が低くなるとしたら、生産性の高い制度適用者の納得感は得られず、制度を利用しつつ生産性を維持・向上させようというインセンティブがそがれてしまう懸念があります。
一方、制度利用にともない仕事内容が制限されてしまう場合には、通常勤務者と評価方法を変えることも考えられます(例えば、後輩育成などの人材育成、マネジメントといった役割が免除される場合には、これらの項目を評価対象項目から外す等)。その場合には、制度利用中の評価に対して利用者の納得を得られるように、制度利用前に会社として、きっちりと評価の基準を示しておく必要があるでしょう。
企業の中に、成果の適正な評価方法が確立され、成果を重視する姿勢が広がっていくことは、多様な働き方が普及するための最も重要なインフラといえます。貴社の評価体系のあり方が、多様な働き方を選択する従業員を想定したものになっているかどうか、チェックしてみてください。
- 福利厚生
福利厚生制度について、通常のフルタイム勤務者と制度利用者で、異なる取り扱いをすべきものがあるかどうか、整理してみましょう。
- 社会保険
社会保険の適用は、原則として雇用関係と所定労働時間の長短によって、下表のように区分されますが、正社員が一時的に労働時間を短縮する場合には、そのことをもって被用者保険の適用から外れることはありません。
雇用保険は以下の2つの要件を満たせば適用されます。
・1年以上の雇用継続見込みがある
・1週間の所定労働時間が20時間以上
なお、労災保険については、労災の適用事業所の労働者であれば、基本的に雇用関係や所定労働時間にかかわらず適用されます。
■ 年金保険・健康保険の適用区分
資格要件 |
常用的な雇用関係 |
あり |
なし |
所定労働時間(注1) |
通常の労働者の3/4以上 |
通常の労働者の3/4未満 |
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適用状況 |
年金保険 |
厚生年金 |
国民年金 |
健康保険 |
健康保険 |
国民健康保険(注2) |
注2:2ヶ月間に、通算して26日以上使用される見込みがない場合。