2021.5.19

技術動向2020⑧

RPA

「RPA」 村岡亜希子 ((株)NTTデータ 社会基盤ソリューション事業本部)

情報サービス企業がデジタルビジネスに取り組むには、どのようなスキルや技術が求められるのか。
デジタルビジネスに関わるキーワードを取り上げて、有識者に寄稿していただいた。

※「DXビジネス全体像の可視化~情報サービス産業白書2020」掲載

1 急速に普及するRPA

RPA(Robotic Process Automation)という言葉は欧米で2015年ころから話題になり、日本では働き方改革や労働人口の不足を背景に2016年からブームが始まった。2017年以降、本格的に企業への導入が進み、2019年の国内企業全体のRPA導入率は国内企業全体の38%、年商1,000億円以上の大企業では51%にも上っている(MM総研「2019RPA国内利用動向調査」)。この普及速度は、スマートフォンの普及速度に匹敵する。RPA関連国内市場規模でいうと、2020年の予想額は666億円、前年比40%増だ。(矢野経営研究所「国内RPA市場規模」)。スマートフォンが1人1台が当たり前になったのと同様、RPA1人1台の存在になる日は遠くないといえる。

2 RPAとは何か

RPAとは、ルールエンジンや人工知能等を搭載したソフトウェア型のロボットが、ホワイトカラーのパソコン操作を自動化する概念のことである。RPAは、HTMLHyper Text Markup Language)の構文解析やアプリケーションの構造解析、画像の認識、座標の認識等の技術を駆使し、あらかじめ設定するシナリオと呼ばれるルールに従い、データの転記や、システムへの投入、検索などの定型的なパソコン操作を自動的に行う。それも人間の数倍の速度で休むことなく、である。

自動化対象のアプリケーションは幅広く、ERPEnterprise Resource Planning)等の各種業務システムからWebアプリケーションまで、パソコン上で扱うものであればほとんどのものを扱うことができる。なお、RPAによる自動化に当たり、操作対象のシステムやアプリケーションの側に手を加える必要のないことも、大きな利点である。例えば、自社のERPと外部のクラウドサービスをつなぐパソコン操作も、両システムに影響を与えることなく自動化可能である。

このRPAというソフトウェア型ロボットは、その性質から仮想知的労働者、デジタルワーカーと呼ばれることもある。人間の労働者と比べてみると面白く、24時間365日働くことができ、文句も言わなければ突然辞めることもない。逆に必要な時だけ一時的に働いてもらうことができる。雇用者(利用者)からすると利便性に優れ、非常に心強い仕事の助っ人・相棒のような存在といえるだろう。

3 RPAツール導入と従来のシステム導入との違い

RPAツール導入と従来のシステム導入との一番の違いといえば、導入する人の違いが挙げられる。RPAの自動化ルール(シナリオ)作成はノンプログラミングでできるものが多い。そのため、これまでプログラマにしかできなかった業務自動化を非ITの人材(現場担当者)が自らできるようになり、ベンダやシステム部等の専門組織へ依頼することが不可欠ではなくなった。

その結果、業務を引き継ぐための要件ヒアリングに費やす時間や開発を待つ時間はなくなり、開発期間・業務改善サイクルの短縮につながった。なんといっても、自動化対象の業務を一番知っている当事者自身が作るため、業務説明に時間を取られた揚げ句、意図と違うものが作られてしまい何度もやり直す、といった手戻りがなくなる効用は大きい(図表1)。

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【図表1 RPAツール導入と従来のシステム導入との違い】

さらに、RPAによる自動化では導入の効果が目に見えて実感できるとともに、自身の業務時間削減にも直結するため、ますますRPA導入が進むという好循環も生まれやすい。ロボットリリース後のメンテナンスの観点でも効用は大きい。例えば、ロボットの操作対象のシステムに変更が生じ、シナリオの修正が必要になるとしても、その都度、外部の専門家に頼る必要なく、自ら変更対応を済ませることができる。

もう一つ、大きなこととして自動化対象業務の違いが挙げられる。システム開発の場合、専門家への業務引き継ぎ作業を含め、多額のコストがかかるため、処理量が多い一部のミッションクリティカル業務しか自動化対象にできなかった。一方のRPAの場合、短期間・低コストで自動化できるため、処理量が必ずしも大きくない業務でも費用対効果が出る。

さらに、開発方法にも違いがあり、RPAはアジャイル開発に適している。大まかな仕様を決めたら短期間で開発して動かし、うまくいかなければ再調整する、ということを繰り返しやすい。結果もすぐにわかるので、RPAによる自動化効果も評価しやすい。

4 RPAの活用事例

RPA導入に適していて効果を上げやすいのは、扱う情報が電子化されており、処理方針や判断ルールが明確で、一作業当たりの繰り返し処理量が多い業務だ。RPAを適用することで、作業時間7割削減、作業速度5倍速といった事例は珍しくない。また、これらの特徴を持つ業務は業界・業種を問わずに存在するため、どのような企業でもRPAによる自動化の恩恵を受けることが可能である。それでは大きな効果を上げているRPAの具体例を紹介する。

事例1)コールセンター

支払督促リスト作成業務での活用

RPAによる自動化作業の定番であるコピーアンドペーストや検索、データ突き合わせの事例である。RPA導入前の作業は以下の流れであった。

①滞納者情報を取得するため、基幹システムから督促対象リストを抽出
②督促対象リストには「顧客番号」しか記載されていないため、別システム(顧客管理システム)に顧客番号を手入力し、お客様名や滞納・交渉履歴を検索
③検索結果を督促対象リストにコピーアンドペーストし、督促顧客リストを作成

RPAの導入により、この作業はすべてロボットが担うことになり、人間の作業時間を100%削減できた。さらに、転記ミスがなくなったことにより業務品質が向上し、古くて反応の遅いシステムを操作しなければならなかった職員の精神的負荷も軽減できた。

事例2)経理部門

新規取引先企業情報の経理システムへの登録業務での活用

いまだにAPIApplication Programming Interface)を実装していないシステムは多い。そういったシステムのデータ連携をする際の「つなぎ」の役割をRPAにさせた事例である。RPA導入前の作業は以下の流れであった。

①新規取引先企業情報DBData Base)からデータをダウンロード
②ダウンロードしたデータを経理システムの所定フォーマットに合わせ加工
③加工したデータを経理システムにアップロード

RPAの導入により、APIを実装するためのシステム改修コストや開発期間を要することなく、人間の作業をゼロにすることができた。

事例3)システム運用部門

システムログの監視

作業量が膨大で人手では実施できなかった作業にRPAを適用し、成果を得た事例である。RPAが担ったのは、毎時システムのアクセスログを監視し、作業者が不審な操作をしていることを検知すると、作業者のアクセス権を停止するという作業である。大量のログを確認するだけでも作業負荷が大きく、ましてやタイムリーに不審な動き見つけだすことは至難の技だ。従前はリスクが潜む可能性を認識しながらも、アクションを打てていなかったが、RPAによるロボット監視により実現することができた。

RPAの適用方法として特徴的な3種の事例を挙げたが、この他にも「経理部での請求書の処理業務」や「購買業務での調達依頼受付から社内承認、発注処理までの業務」「交通費精算申請のルートや金額が正しいかのチェック業務」等、RPAで効果のある業務は利用者の発想と工夫次第でいくらでも創出可能である。また、これまではオフィス業務自動化の印象が強かったRPAだが、2019年ころからは工場など製造業の現場での活用も目立ってきている。カイゼン文化の本場でも新たな成果が生み出されていくに違いない。

5 RPAの進展

RPAの普及が進むにつれ新たな課題も出てくる。本項では新たな課題解決のための機能やソリューションを紹介する。

①管理統制機能

ライセンス導入が数十~数百本と大規模になると「ロボットへの実行指示や管理に手間がかる」、「不正利用を防ぐためにロボットを利用できるユーザ権限を管理したい」といった要望が出てくる。これに応えるのが、複数のロボットやシナリオを一元管理する運用管理機能や、ログ取得・解析を行う監査機能、不正利用の検知およびアクセス権の管理を行うセキュリティ機能などである。これらは 主要RPA製品であれば標準搭載されているか、追加オプションとして利用できるようになっている。

②ダッシュボード機能

管理統制機能とセットで、ロボットの稼働パフォーマンスを測定・分析するダッシュボード機能を備えた製品が増えている。BIBusiness Intelligence)ツールのイメージである。これにより、業務自動化で削減された時間とコストを数値化することなども可能になる。さらに機械学習を用いてロボット稼働率のボトルネックを予測する、といった発展も始まっている。

RPA化に適したパソコン作業のレコメンド機能

いわゆるプロセスマイニング技術が基盤の機能だ。現場の作業者のパソコン操作ログを読み込むことで、自動化に適した作業を見極め、ロボット化をお勧めしてくれる機能なども登場している。「自分の業務は自動化できない」や、「RPA化したくても自分の業務のどこに適用していいかわからない」、といったユーザに気づきを与え、課題解決を支援する。昨今では自動化に適した処理の抽出にとどまらず、既存のロボットの中から類似の処理を自動化するものを探し出し流用を促すことで、ユーザのロボット作成時間の削減に寄与する機能も登場している。

SaaSRPA

2018年に入りSaaSSoftware as a Service)に特化したRPAツールが登場し、2019年は主要RPAツールもSaaS版をリリースした。SaaS版であると、初期費用を抑えられる上に、必要な時に必要な分だけRPAを利用することが可能となるため、小規模な利用に適している。

6 RPAの展望

この数年でRPAによる定型業務の自動化は劇的に進んだが、人の応対や判断を必要とする非定型業務は自動化できずに残っており、AIArtificial Inteligence)ツールとの連携による非定型業務の自動化への期待が高まっている。イメージとしては、高度な知覚や判断を行えるAIと、手足として作業を行うRPAという関係だ。RPA導入が進むことで、ロボットという手足が揃った上に、非定型業務という残課題が明確になったオフィスは、AIも導入しやすくなる。「RPAAI導入の土壌になる」とか、「RPADXDigital Transformation)へと発展する契機になる」などといわれるゆえんである(図表2)。

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【図表2 RPAが土壌となりAIによる業務の自動化へ】

RPAと連携する代表的なAI技術としてはAI-OCROptical Character Recognition)や、AIチャットボット、AI電話、AI文書審査などが挙げられる。AI-OCRはいまや定番となり、RPAを上回る普及速度を示している。またAIチャットボットや、AI電話などの高度化ツールは、自動化範囲がバックオフィスにとどまらないため、顧客接点の改革へとつながる事例も出始めている。このような、RPAAIツールを組み合わせた高度な自動化の概念を、IPAIntelligent Process Automation)やIAIntelligent Automation)と呼ぶこともある。RPAと本質的な違いはないが、RPAの発展系のテクノロジーキーワードとして紹介する。

最後に、テクノロジーの観点だけでなく、 RPADXを実現する人材・組織文化を育てているという点でも企業のDXに貢献していることをお伝えして、本稿を締めくくりたい。

実行:自分の業務の自動化
認識:デジタル化の威力の認識
分析:デジタル化の効果分析、他の成功例調査
展開:自分の成功例の横展開
高度化:他の技術の導入

これは、RPAを有効活用している企業の担当者が経験している導入・展開のステップであり、これをサイクル化させることで、他のテクノロジー導入へ幅出しすることができる。IPAへの発展だけでなく、IoTInternet of Things)や5G5th Generation)等、他のデジタル技術の活用にも繋がるだろう。実際、RPAで大きな成果を出している企業ほど、RPAツールのユーザ会への参加、社内報告会の開催等、このステップに該当する活動を積極的に実施しているし、AI-OCR導入等、次の技術でこのサイクルを回し始めている。

このサイクルを回すことができる人材が、継続的変革を起こせるDX人材であり、DX人材を育てる契機がRPA導入だ。RPAは非IT人材でも取り組むことができるため、前述のステップを経験している人材の裾野が広いことも注目すべき点である。社内各所にこういった人材がいる企業こそが、継続的DXを実現できる企業といえるだろう。

#RPA#論文

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