2021.4.14

技術動向2020④

次世代ネットワーク

「次世代ネットワーク」 木村俊一 ((株)NTTデータ経営研究所 情報戦略事業本部)

情報サービス企業がデジタルビジネスに取り組むには、どのようなスキルや技術が求められるのか。
デジタルビジネスに関わるキーワードを取り上げて、有識者に寄稿していただいた。

※「DXビジネス全体像の可視化~情報サービス産業白書2020」掲載

新しい次世代のネットワークに関する動きが、活性化してきている。総務省資料「ICTインフラ地域展開戦略検討会 最終取りまとめ概要」(平成308月)によれば、第5世代移動通信システム(以下5G)や、これに伴う光ファイバやICTの整備、およびこれらの活用により、2030年には約73兆円の経済効果が見込まれるという。

次世代の通信は、人と人との間のコミュニケーションを支える通信から、機械と機械の間の通信を支えるものとなってきている。自動運転や、水道、電気等の自動検針(スマートメーター)、センサを利用したインフラなどのモニタリングシステム等に活用されるネットワークがその代表的な例である。

1 次世代ネットワークの特徴

ここでは、次世代ネットワークとして、5Gネットワーク、LPWA(Low Power Wide Area)ネットワーク、メッシュネットワーク、および衛星通信ネットワークの動向を取り上げる。
5Gはスマートフォンなどの携帯電話に使用される第五世代の通信方式であり、自動運転や遠隔医療など、ネットワークを介して大量の情報を高速に伝送する必要があり、さらにリアルタイム制御を必要とする遅延の許されないシステムでの活用が期待されている。

LPWAは、その名の示すとおり、省電力、広範囲をカバーする通信である。通信速度が数百bpsと限られるため、携帯電話などの用途には適さないが、テキストデータのような少量の情報を、低コストで幅広い範囲に送信する必要のある場面での活用が期待されている。例えば、センサで取得したインフラの情報を定期的に収集するモニタリングシステムへの活用などである。

メッシュネットワークは複数の通信デバイスをメッシュ状に張り巡らし、広範囲をカバーするネットワークである。例えばWi-Fiを活用したメッシュWi-Fiの活用は既に拡大しつつある。メッシュWi-Fiは、親機と子機がセットとなり、親機と子機、もしくは子機間で相互に通信することで、広範囲をカバーする。ビルや、一般家庭の隅々にまでネットワークを張り巡らせることができ、今後拡大するスマートビル、スマートホームなどを支える技術として期待される。

衛星通信ネットワーク(衛星コンステレーション)は、衛星ビジネスへのベンチャー企業参画の活性化もあり、衛星の小型化、打ち上げの低コストが進んだことにより期待が高まっているネットワークである。大量の小型衛星を従来の衛星より低軌道で運用することで、これまでより高速、低遅延な通信ネットワークを実現する。まだまだ課題も多い方式であるが、グローバル規模でのインターネット空白地帯を解消し、あまねくインターネットサービスを提供するための手段として期待されている。図表1は、これらの特徴をまとめたものである。次節以降、詳細を見ていこう。

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【図表1:次世代ネットワークの特徴】

2 5Gネットワーク

5Gネットワークの特徴は、超高速、超低遅延、多数同時接続である。5Gネットワークに求められる主な要求仕様をみると、超高速では最高伝送速度10Gbps(現行LTE100倍)、超低遅延では1ミリ秒程度の遅延(現行LTE10分の1)、多数同時接続では1平方キロメートル当たり100万台接続(現行LTE100倍)となっている。

これらの高い性能の応用例としてITUInternational Telecommunication Union:国際電気通信連合)のレポートでは、大容量高速配信(4K/8K等の高精細画像の高速伝送)や、VR(Virtual Reality)AR(Augmented Reality)、自動運転、産業オートメーション、スマートシティなど、幅広い活用が挙げられている。5Gの基本的なコンセプトは、これらの様々な要求に対して柔軟な対応を可能とすることであり、ユースケースに応じて、最適な機能、品質を選択的に提供するという点にある。

例えば、大容量高速配信では、超高速という特徴への要求が重要であり、自動運転になると、加えて超低遅延への要求が大きくなる。5Gネットワークでは、これらの用途に合わせて、ネットワークの仕様を最適化するため、要求に合わせてネットワークの構成や、リソースを論理的に分割するスライシングといった、高度なネットワーク制御技術が開発されている。

5Gの展開には、5Gの通信制御を4Gのネットワークで行い、4G5Gを一体で運用するノンスタンドアロン型(NSA型)と、5Gシステムだけで構成、運用するスタンドアロン型(SA型)がある。SA型は5Gの能力を最大限引き出すことが可能であるが投資額が大きくなる。NSA型は初期投資を抑えられ、初期段階から安定した通信品質が期待できるため、多くの国でまずはNSA型が展開され、徐々にSA型に移行してゆくと予想される。ただし中国は最初からSA型での展開を計画している。

日本では、20194月、総務省は大手キャリア4社(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイル)に、5Gの電波を割り当てた。これより、NTTドコモ、KDDIは、5年以内に全国の9割の地域でサービスを開始するとしている。2020年春以降の本格的な5G商用サービス開始に先立ち、大手キャリア各社は2019年、5Gプレサービスを実施した。

NTTドコモは20199月にワールドカップラグビーで5G高臨場パブリックビューイングや、マルチアングル視聴などの観戦支援サービスを展開した。また、KDDIは、201911月、国際的ドローンレース・カンファレンスにおいて、高画質な映像配信や4Kリアルタイム中継を行っている。また、5Gの本格活用に向けた実証実験も行われている。20202月、ソフトバンクグループのWireless City Planningと、日本通運は流通センターにおいて、5Gを活用したスマート物流の実証実験を実施した。集荷のプロセスを対象に行われた本実験では、トラック荷室内の状態を光センサや、重量センサで捉える5Gを利用してトラックの運転手や、遠隔地にいる管理者に伝送することで、トラックの積載状態をリアルタイムで把握した。これにより、集荷が発生した場合、集荷地点の近隣にいるトラックから、積載率に余裕があるトラックを指定して、集荷に向かうことができるようになり、効率が向上するという。

期待されるローカル5G

5Gの活用におけるもう1つの大きなテーマはローカル5Gの活用である。ローカル5Gとは、企業や自治体などが自らの建物や敷地内で、独自に自身の要求に応じた5Gネットワークを設置し利用する新しい仕組みである。

これを活用することで、大手キャリアの5G整備を待つことなく、5Gの活用を推進することが可能である。20196月から8月にかけて、住友商事は、CATV事業者が出資する地域ワイヤレスジャパンなどとローカル5Gの実証実験を都内2か所、神奈川県横須賀市、長野県安曇野市、愛媛県松山市で実施した。第1回目の愛媛県松山市では、CATVのインフラとローカル5Gのインフラを組み合わせた屋外実証実験を行い、屋外での距離、見通しの違いによる伝播への影響や、4K/8K画像の伝送可能性が検証された。

201912月、ローカル5Gの免許申請の受付が開始された。初日だけでNTT東日本、富士通、NEC、ジュピターテレコム、ケーブルテレビ株式会社、東京都など10者が免許を申請しており、期待の高さがうかがえる。

ローカル5Gの活用場面としては、工場や農地内の制御・監視、スタジアムなどにおける映像伝送や、公共インフラなどでの利用が想定されている。また、FWAFixed Wireless Access:固定無線アクセス)サービスとしての活用も想定されている。通信のラストワンマイルを5Gに置き換えることで、宅内への引き込み工事などの手間が不要になるというメリットがある。また、高層マンションで、光ファイバの敷設が難しい場合なども、ローカル5Gが有効に利用できる。

3 LPWAネットワーク

LPWA(Low Power Wide Area)も、今後拡大するモノとモノの間の通信、いわゆるIoTシステムの通信に適したネットワークである。通信速度は数kbpsから数百kbps程度と携帯電話システムと比較して低速であるが、一般的な電池で数年から、数十年運用可能な省電力性、および数キロメートルから、数十キロメートルもの通信の広域性が特徴である。このため、電源確保が難しい場所から、センサ等の情報を定期的に送信する必要のあるIoTシステムへの適用等が大いに期待されている。

LPWAは免許が不要な周波数帯を利用するものと、免許が必要な周波数帯を利用するものに分かれる。このうち免許が不要な周波数帯を利用する無線通信システムの主なものとして、フランスのIoT事業者SIGFOX社が開発し推進するSIGFOXと、米国半導体大手セムテック社が開発し、LoRa Alliance で仕様化されたオープンな通信規格であるLoRaがある。いずれも周波数が1GHzより低いサブギガ帯を使用する。

LPWAの活用は、既にインフラのモニタリング等の用途で、拡大しつつある。米国では、水道インフラの劣化に対応するために構築されたインフラモニタリングのネットワークで活用されている。また、日本でも長野県大町市にて、水源や配水池を結ぶネットワークがLPWAで構築され、各施設の稼働状況を常時監視するシステムの実証が行われた。また、福島県郡山市でも、スマート水道メーターの自動検針の実証実験が推進されており、今後もインフラ監視への活用は拡大が予想される。

一次産業、なかでも林業への活用も多くみられるようになってきている。20201月、山梨県小菅村では、林業従事者の労働災害の抑止、獣害対策等といった林業の課題を解決するため、山間部を網羅できるLPWAネットワークを利用して、林業従事者が緊急時に救助を要請可能にする仕組み、害獣捕獲の通知機能等を提供する仕組みの実証実験を実施することを発表した。また、愛媛県久万高原町は20201月、区域全体を網羅するLPWAネットワークを構築することを発表した。久万高原町は、総面積の約9割を森林が占め、林業が基幹産業となっている。LPWAネットワーク構築の主な目的は、前述の小菅村と同様、林業従事者の労働災害の抑止である。携帯電話のつながらない場所での林業従事者の事故発生時、緊急救助の要請が遅れるケースが多々あり、これを解決するために全域に渡るネットワークの構築を決定したという。

都市部での活用では、関西空港における活用が挙げられる。関西空港は空港サービスの利用者満足度を測定するために、「Customer Feedback Device」を導入した。チェックインカウンターや、保安検査場などに85台を導入しており、これにLPWAが利用されている。

4 メッシュネットワーク

メッシュネットワークとは、通信端末同士が相互に通信を行うことにより、網の目(mesh)状に形成される通信ネットワークの方式である。一般的な無線通信の形態は、基地局などを中心に、個々の端末が通信する形態が多いが、メッシュネットワークでは、通信機器がメッシュ状に連携し、相互にデータを送受信する。いずれかの端末がインターネットなど外部と接続されていれば、メッシュに参加しているすべての端末から接続することができる。

近傍の端末との間で通信できればよいため、弱い出力でもネットワークを構成することが可能となる。現在は、Bluetooth機器や、Wi-Fi機器を活用したネットワーク、前述のLPWAを活用したネットワークなどがある。

これらを利用したメッシュネットワークは、主としてスマートビルディングや、スマートファクトリーにおけるネットワークとしての利用が見込まれている。例えばBluetoothであれば、通信距離は数メートルからせいぜい数十メートルであるが、メッシュネットワークにすることで、多数のデバイスを相互接続し、ビルや工場全体をBluetoothでカバーすることが可能となる。

スマートファクトリーや、スマートビルディング以外の活用では、2019年青森県弘前市教育委員会が、Wi-Fiメッシュネットワークを活用した実証事業を実施している。文部科学省が掲げた2025年までに、学習用端末を児童、生徒が11台利用できる環境の整備にあたり、校内LANの整備は必須であるが、Wi-Fiメッシュネットワークを積極的に活用することで、必要な費用を最低限に抑えることが可能となるという。

5 衛星通信ネットワーク(衛星コンステレーション)

地球上には、まだネットワークが整備されておらず、インターネットにアクセスできない地域が多数ある。これによるグローバル規模でのデジタルデバイドを解消するために注目されているのが、衛星通信ネットワーク(衛星コンステレーション)である。

これまでも衛星を活用した通信サービスは、BS放送、航空機内のインターネット接続などに使用されており、なじみの深いものであるが、これらは衛星との距離が遠いため、通信速度が遅く、大きな遅延も発生している。衛星通信ネットワークは低軌道で小型な衛星を多数運用することで、高速、低遅延な衛星通信の実現を目指す。

昨今、ベンチャー企業などの宇宙ビジネスへの参入が加速し、衛星の小型化、および低コスト化が進んでいる。代表的な例としては、イーロン・マスクが創設したSpaceXが挙げられる。同社は、衛星を利用したブロードバント通信実現するStarlink計画を推進している。20202月時点で、約300基の衛星を軌道に投入しており、最終的には約12,000基の衛星を打ち上げる許可を得ている。また、同社は201910月、さらに30,000基を打ち上げる計画をITUに申請した。Eコマースサイトを運営するAmazonも衛星通信ネッワークに興味を示しており約3,000基の衛星を打ち上げる許可を2019年に申請した。他にもOneWebO3b Networksなど、多くの企業が衛星通信ネットワークサービスを企画、推進している。

具体的な活用としては、主として船舶や航空機における高速インターネットや、リアルタイムの船舶・機体監視、無人航空機のコントロール、工場プラントの稼働状況のリアルタイムモニタリング、過疎地へのインターネットサービスの提供などが挙げられる。

期待の高まる衛星通信ネットワークであるが、解決すべき課題も多い。特に大きな課題と目されるのはスペースデブリ(宇宙ゴミ)問題への対応である。大量の衛星を打ち上げると、これらの運用が終了した後、大量のスペースデブリとなって新たな衛星の運用を妨げることになる。これらを見据えた適切な対応が求められている。

#ネットワーク#論文#通信

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