2020.10. 7

2019年度調査

ITエンジニアが選ぶ 流行る技術なくなる技術

ITエンジニアの悩みに、様々なIT技術の中で何を習得すべきなのか判断しづらいことがある。技術の普及と衰退が短いサイクルであるがゆえに、習得した技術を活用する場面に恵まれないことも多々ある。
そこでエンジニアへのアンケートを通じて、技術の普及動向を調査分析し、現状と今後の方向性を明らかにする「情報技術マップ調査」を2004年から実施している。本調査では、図1に示すように12のカテゴリにまたがる100以上の技術を調査対象にしており、技術の浸透状況を網羅的に捉えられるよう工夫している。

(一社)情報サービス産業協会 大原道雄

【図1 2019年度版ITディレクトリの構造及び技術(一部抜粋)】

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データの利活用に関する技術の普及

データ利活用に関する技術が盛り上がりを見せた。事業基盤を支えるシステムではミッションクリティカル(*1)なものとして堅牢に構築しつつ、先進的なシステムではそのデータを新技術で柔軟・スピーディに利活用するというバイモーダル(*2)な取り組みが広まりつつあると思われる。

調査結果より

実績では「A.高性能データ処理基盤」が向上。「C.データ連携ツール」等により基幹系のデータを利活用する流れと思われる。

着手意向では「B.クラウドデータ連携技術」や「B.コンテナ技術(*3)」が向上。「D.データマイニング技術(*4)」「D.テキスト・マイニング技術(*5)」も高い値を維持しており、SoE(System of Engagement)領域への積極姿勢が続くと思われる。

データベースはオンプレミス系技術の実績が高いままであり堅牢なSoR(System of Records)と柔軟なSoEというバイモーダル志向があると思われる。

Windowsのサポート期限切れとクラウド化への流れ

日本政府がクラウド・バイ・デフォルト原則を掲げる中でクラウド基盤の利用には追い風が吹いているが、その中でWindows製品にサポート期限が到来した。しかしながらこれをきっかけとして乗り換えのブームといったものは特に見受けられずWindows製品の実績は昨年度と同様を維持している。

調査結果より

「A.オープンソース系サーバOS」の実績に大きな変化は生じておらず、大規模な移行ブームといったものは生じなかった模様。

「B.クラウド基盤サービス」は数年来、実績を拡大。政府の「クラウド・バイ・デフォルト原則は民間にも浸透していくのではないか。

システム構築の生産性向上

システム構築の生産性を高めるためのツール類も成長傾向にあり、単に手作業を自動化する分野だけでなく統合ログ管理のようにシステム運用に伴う判断を一部システムに委ね自律性を高めるような取り組みも拡大していくと思われる。

調査結果より

「B.システム基盤構成管理ツール」「H.分散型構成管理ツール」は経年で成長を維持。

「I.超高速開発」「I.DevOps/DevSecOps(*6)」は研究期と普及期の境界付近だが数年前から安定しており一定の地位を確立。

「F.SIEM(Security Information and Event Management)」「J.統合ログ管理」も着手意向が高く、システムの自動化を進める動きは様々な角度から続いていくものと思われる。

2019年度に調査を開始した技術

以下は2019年度に調査を開始した技術であり、研究段階に位置したものが多かった。その大半は認知度が低く、114技術中90位を下回るものの着手意向は30位以内に入っているものが多い。関心を持っている特定の技術者に普及することをきっかけとして、その他の技術者に拡大していく可能性があり、今後の動向に注目していきたい。
カテゴリ「J.運用管理」の統合ログ管理はログの監視やアーカイブ等で用いられることから運用管理に位置付けているが、ツールの使い方によってはセキュリティやプロビジョニングのほか、マーケティングなどの業務面でも応用ができる点が特徴的である。そのため導入実績の多寡だけでなく用途にも意識を向けていく必要があるだろう。

【2019年度に調査を開始した技術の傾向】

技術名

傾向

バックアップアプライアンス

実績が高く着手意向は低いため既に広く利用が拡大した状態

データ連携ツール

ž実績指数が全体で10位と広く普及

データレイク(*7)

ž認知度は最下位に近いが着手意向が高い

ž特定層からの期待が高い技術

ストリームデータ処理(*8)

ž認知度は100位以下だが着手意向が高い

ž特定層からの期待が高い技術

ブロックチェーン(*9)

ž認知度と着手意向ともに高い

IoTセンサー

ž実績は100位以下だが着手意向が5位と高く今後の拡大に期待

CASB/クラウド利用セキュリティ対策関連技法

ž認知度は100位以下だが着手意向が高い

ž特定層からの期待が高い技術

EDR/標的型攻撃対策ツール等

ž認知度は94位だが着手意向が高い

ž特定層からの期待が高い技術

Webアプリセキュリティ診断ツール

ž認知度は100位以下だが着手意向が高い

ž既存利用者の継続利用意向が高い

統合ログ管理

ž実績は67位と中間層だが着手意向が26位と高く今後の拡大に期待

欠陥マネジメント/欠陥エンジニアリング

ž認知度は100位以下だが着手意向が高い

ž特定層からの期待が高い技術

(*1)ミッションクリティカル:業務の遂行やサービスに必要不可欠であり、障害や誤作動などが許されないこと。
(*2)バイモーダル:2つのモードで、予算と人員を分けて、それぞれに適した手法で構築・運用するアプローチ。
(*3)コンテナ技術:1つのOS環境の上で、他のアプリケーションとは分離されたアプリケーション実行環境を提供する技術。DockerLXCなど。
(*4)データマイニング技術:大量の数値データを分析し、関係性や傾向を発見するための技術。
(*5)テキストマイニング技術:大量のテキストデータを分析し、ルールを発見するための技術。
(*6)DevOps/DevSecOps:開発(Development)と運用(Operations)が協力し、ビジネス要求に対して、より柔軟に、スピーディに、頻繁なリリースに対応できるためのプラクティス。ソフトウェアとしては開発プロセス可視化ツール、品質管理ツール、Continuous Integrationツールなどが用いられる。さらにセキュリティ(Security)も一体となって検討するためのプラクティスとして、DevSecOpsがある。
(*7)データレイク:様々なデータソースから集められたデータを管理し、活用のための前処理を行える環境。構造化データに限らず非構造化データも格納することができる。
(*8)ストリームデータ処理:無限に到来する時刻順のデータ(ストリームデータ)をリアルタイムに処理する技術。「今」の状況や変化をリアルタイムに監視でき、交通情報や不正操作の監視を行うシステム等への利用で効果が期待できる。
(*9)ブロックチェーン:複数の企業や組織などが、改ざんできない「同じ台帳(情報)」を持ち、情報を共有し、かつ利活用できる、高いセキュリティ性を持った技術。仮想通貨以外にも登記台帳や電子投票等に活用できる。

#IT業界#技術

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