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2020.6.24

田畑浩秋(情報サービス産業協会)

他産業と比較した情報サービス産業の働き方~   ①労働時間・休暇取得

厚生労働省「毎月勤労統計調査」によれば、平成30年の情報サービス業の総労働時間は約160時間で産業全体平均より約7時間短い。また、所定外労働時間は平成26年以降急速に減少してきており、平成30年はついに産業全体を下回るなど、働き方改革が他産業よりも速いペースで進んでいることを示唆している。
厚生労働省「就労条件総合調査」によれば、情報通信業の有給休暇取得率は約6割で全産業平均を上回っている。情報サービス産業は、「JISA働き方改革宣言」第1フェーズが謳う「健康経営の実現」に向けて着実に前進しており、かつて「3K」などと揶揄されたような働き方・休み方に課題のある状況からは概ね脱却しているといえるのではないか。
主に厚生労働省の毎月勤労統計調査に基づき、情報サービス産業の労働時間や有給休暇取得など働き方の状況について、他産業と比較しながら特徴を明らかにする。(全2回)
※「ITエンジニアの働き方改革 情報サービス産業白書2019」掲載

1 労働時間


厚生労働省「毎月勤労統計調査」によれば、一般労働者(常用労働者のうちパートタイム労働者以外の者)の月間実労働時間(総労働時間、所定内労働時間、所定外労働時間)は図表1-4-1-1のとおりである。平成30年の産業全体の総実労働時間は167.5時間で、うち所定内労働時間は153.1時間、所定外労働時間は14.4時間である。産業別に見ると、情報サービス業の総実労働時間は160.3時間で産業全体を下回っており、同図表に挙げる産業のなかでは金融業・保険業に次いで短い。内訳を見ると、所定内労働時間は146.4時間で産業全体より約7時間短いのに対して、所定外労働時間は13.9時間で産業全体とほぼ同水準であり、所定内労働時間が産業全体より短いことが総労働時間の短さにつながっている。

なお、参考までにJISA((一社)情報サービス産業協会)「基本統計調査」の結果も掲載する。平成30年度調査では、総労働時間は168.8時間、所定外労働時間は21.3時間と、「毎月勤労統計調査」の情報サービス業よりも長くなっている。これは、同調査の対象が「常時5人以上を雇用する事業所」であり、大企業から中小・零細企業まで幅広くカバーしているのに対して、「基本統計調査」は企業規模が比較的大きいJISA会員企業を対象としているなど、調査対象の違いによるものと推測される。

過去10年間の月間所定外労働時間の推移を図表1-4-1-2に示す。産業全体では微増から横ばいで推移しているのに対して、情報サービス業は平成26年度以後急速に減少し、平成30年度にはついに産業全体を下回ることとなった。このように情報サービス業の所定外労働時間は業界各社の働き方改革への取組み等もあって大きく改善してきており、毎月勤労統計調査を見る限りは、「情報サービス業は長時間労働」という見方はもはや過去のものとなりつつあるといえる。

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2 休暇取得


厚生労働省「就労条件総合調査」によれば、労働者 の年次有給休暇の取得状況の推移は図表1-4-1-3のとおりである。平成30年の産業全体の有給休暇の付与日数は18.2日、取得日数は9.3日で、取得率は51.1%であった。産業別に見ると、情報通信業 の付与日数は19.2日で産業全体より1日多く、同図表の産業のなかでは金融・保険業に次いで多い。取得日数は11.5日で産業全体より2日以上多く、同図表の産業のなかで最も多い。その結果、取得率は59.8%と産業全体を8.7%も上回り、同図表の産業のなかで最も高い取得率となっている。

平成26年度からの増加率を見ると、情報通信業の付与日数は1.1%増加したのに対して取得日数は4.5%増加し、その結果取得率は2.1ポイント増と、ほぼ産業全体平均と同程度の増加率となった。

なお、参考までに「JISA基本統計調査」の結果も掲載する。平成30年度調査では、付与日数は18.4日と就労条件総合調査の産業全体平均とほぼ同程度であるが、取得日数は12.4日と産業全体よりも3日以上も多い。その結果、取得率は67.8%と、図表1-4-1-3の産業のなかで最も高くなっている。

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3 まとめ


平成29年4月にJISAが策定・公表した「働き方改革宣言 」では、JISA会員企業の働き方改革の実践プロセスを3つのフェーズに分けている。その第1フェーズである「健康経営の実現」では、労働時間の短縮と休暇取得の促進を目指し、目標値として前者は「月間平均時間外労働:20時間以内」、後者は「年次有給休暇取得率:90%以上」を掲げている。

このうち労働時間については「毎月勤労統計調査」では13.9時間と既に目標よりも大幅に短い結果となった。一方、「JISA基本統計調査」では21.3時間であり目標にはまだ到達してはいないが、これまでの推移を見ると着実に減少してきており、今後も継続した取組みが期待される。
一方、有給休暇取得については「就労条件総合調査」では55.5%、JISA「基本統計調査」では65.7%であり、目標の90%にはまだ及ばないものの、これも着実に向上してきており、また他産業との比較では高い水準にあることを考えると、情報サービス産業は他産業との比較、健康経営の実現の面では優位にあるといえるのではないだろうか。
今後、情報サービス企業が「働き方改革宣言」の実践プロセスの「第2フェーズ~スマートワークの実現」「第3フェーズ~『ワクワク』の追求」へとステップアップし、少子高齢化により労働需給が逼迫する中で激化する他産業との人材獲得競争を勝ち抜く決め手となる「産業としての魅力」を高めるうえでも、労働時間の短縮と休暇取得の促進による「健康経営の実現」に向けた取組みの継続が期待される。

・・・②ダイバーシティ、テレワーク、ボランティア休暇の状況 に続く

#SIer#働き方#有休#残業#論文

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