• TOP > 
  • 調査&研究 > 
  • 【論文】情報産業史から見たITトレンドの本質と意義
    ―AIやIOT、DXは、どこから来てどこへ行くのか―③

2019.12.13

西郷正宏(日本システムウエア(株))

【論文】情報産業史から見たITトレンドの本質と意義
―AIやIOT、DXは、どこから来てどこへ行くのか―③

昨今、AIやIOT、DX(デジタルトランスフォーメーション)など、IT(情報技術)に関連する略語や外来語がトレンドワード(流行語)として氾濫しているといわれる。以前からIT業界内では略語や外来語が業界用語や技術用語として常用されていたが、今やビジネス用語や日常用語として一般紙にも頻繁に登場していることが、以前までとは違う点である。 本論は、1970年代から技術者(システムエンジニア)として情報システムの開発や運用に携わり、その後も経営企画や広報などのスタッフとして40年以上にわたってIT業界に身を置いてきた者として、周囲で生まれては消えていった数多くのITトレンドについて、その表面上の意味ではなく、言葉の奥にある本質と意義について考察を試みたものである。(全4回) ※(一社)日本経営管理学会「経営管理研究」第9号掲載

①【~1970年代】はこちら
➁【1980年代】【1990年代】はこちら

2000年代~】人工知能か人工頭脳か

(1)第1次AIブームは半世紀以上も昔の話

現在のAI(Artificial Intelligence:人工知能)ブームは、第3次ブームといわれている。第1次AIブームは、コンピュータにパズルや迷路など単純なゲームを解かせる研究が行われた1960年代とされている(注2)。そして、1980年代の第2次AIブームでは、医療など複雑な問題に対して人間の専門家(エキスパート)が行っている高度な判断を知識ベースとロジックツリーなどでプログラミングしようとしたものであり、それはエキスパートシステムと呼ばれ、これを作るエンジニアをKE(Knowledge Engineer)と呼んだ。しかし実際の専門家を代替することは難しかった。エキスパートシステムは、KEが専門家をインタビューして幾多の条件について専門家の判断をYES/NOの膨大な判断ツリーにしてプログラミングするのだが、そもそも実際の人間の専門家は必ずしもそのような単純なロジックを積み重ねて判断していないことがやがて明らかになり、これらはいつの間にか忘れられてブームは下火となった。

(2)現在のAIブームは「深層学習ブーム」

その後、AIへの新しいアプローチとして機械学習の研究が行われ、その機械学習の一種である深層学習(ディープラーニング)という技術が2006年頃に登場した。2016年にはこれを用いた「アルファ碁」がプロ棋士に勝利して話題となり、現在の第3次AIブームとなった(注2)。深層学習とは人間の脳の神経細胞(ニューロン)を模したシステムに大量のデータを入力し、人間を介入させずに自律的に結果から学習させてプログラムを変更していく。人間が固定的なアルゴリズム(手順)をプログラミングするエキスパートシステムとは技術的に全く異なるAIへのアプローチである。

(3)AI(人工知能)の先にある人工頭脳

人類がコンピュータに求める理想の姿の一つは "人間の頭脳の代わりになる存在"であり鉄腕アトムのような電子頭脳だとしたら、本来、コンピュータの目標は人工「知能」ではなく人工「頭脳」ではなかったのか?下図は人間の頭脳(大脳)の機能を表わしている(注3)。

C003_1.jpg

この図で「知能」は計算や推理などの機能を含んだ「頭脳」の一部ではあるが全てではない。例として挙げた鉄腕アトムは1952年に発表された手塚治虫のSF漫画だが、物語の設定としては21世紀初頭の2003年に電子頭脳を持ったアトムが誕生することになっている。1950年には初の商用コンピュータUNIVAC-1が誕生しており、機械が「計算」という領域で人間を遥かに凌駕した時代だったことを考えれば、半世紀後にはアトムのような人工頭脳が出来ると考えたのも無理からぬことだろう。しかし現実には、21世紀に入って20年が経とうとしている現時点でも、コンピュータは人間の「頭脳」はおろか「知能」の機能もまだ完全には代替出来ていない。

・・・➃に続く

【注記】
(注2)東京新聞 世界と日本 大図解シリーズ1397「人工知能」2019.3.24より
(注3)早稲田大学システム科学研究所 田崎醇之助教授の心理学講義メモ1988より

【参考文献等】M.E.ポーター「競争の戦略」土岐坤:訳、ダイヤモンド社、1982
R.T. デラマーター「ビッグブルー IBMはいかに市場を制したか」青木栄一:訳、 日本経済新聞社、1987
・マイクロソフトプレス編「実録!天才プログラマー」岡和夫:訳、アスキー出版、1987
・西郷正宏「NSWの戦略市場計画」早稲田大学システム科学研究所、1988
・チャールズ・ワイズマン「戦略的情報システム 競争戦略の武器としての情報技術」土屋守章、辻新六:訳、ダイヤモンド社、1989
Alan Curtis Kay「アラン・ケイ」鶴岡雄二:翻訳、浜野保樹:監修、アスキー出版、1992
・坂村健「痛快!コンピュータ学」集英社、1999

#IT業界#論文

この記事をシェアする
  • この記事はいかがでしたか?