2020.4. 3

山本英己(情報サービス産業協会)

DXを加速する先進技術の導入・活用

1 取り巻く環境の変化と情報サービス企業の使命

あらゆるモノがインターネットにつながるIoTが、社会の在り方を根底から変えつつある。さまざまな場所にある膨大なデバイスやセンサーから大量のデータが収集され、解析されている。この変革は数年の短期で終わる一過性のものではない。

このような変化のなか、過去、安定的にシステム発注を行ってきたユーザ企業は、テクノロジーを活用した新しい時代に合ったビジネスモデルをいかに開発するか苦心している。ユーザがこの波に乗り遅れ、グローバル競争から脱落し生き残ることが難しくなれば、情報サービス企業にも影響を及ぼすことになる。ユーザと情報サービス企業は一緒になって、デジタルトタンスフォーメーション(DX)の波に対応していく必要がある。情報サービス企業とソフトウェア技術者は、この変化を一歩先でリードし、ユーザー企業を適切にガイドしていくことが必要だろう。

2 共創型ビジネスの必要性

情報システム開発は、典型的な形としては企業の基幹系システムを中心に情報システム部門が企画と要求仕様を取りまとめ、情報システム部門からの発注に基づいて情報サービス企業がウォーターフォール型の設計・開発を行い、納入・実装し、保守サービスを提供してきた。情報サービス企業に求められてきたことは、「要求に忠実に、間違いなく正確に、品質をできるだけ高く」である。そのためシステムの安定運用が重視され、実績のある技術が好まれてきた。

では、DXの時代に求められるものは何か。基幹系システムそのものがなくなることはない。保守の費用が発生するとともにハードやOSなどのサポート期限に合わせてモダナイゼーション需要が発生する。一方で、より注目を浴びているのが、先進技術を活用したビジネスである。例えばスマート工場の例として、生産設備の維持・管理・保守の効率化、品質管理・検品などの効率化・デジタル化が、各種センサーとAIを組み合わせることによって既に可能となっている。小売りの分野では、同様に、RFID、センサ、スマートフォンなどを組み合わせて無人店舗やキャッシュレス自動決済などの実験が進んでいる。自動車の自動運転は、部分的限定的条件においては既に実現している。決済、振り込み、投資などはオンラインで実現されており、フィンテックが進展していく。

ユーザの要求を実装し改善しながら、スピードを重視してシステムを構築していく必要がある。開発のための手法としてはウォーターフォールよりもアジャイルやDevOps、スクラッチではなくプロトタイプ開発、そして何よりもシステムを欲するユーザと対面で仕事をし、ユーザの業務を理解し、実現したいことをシステムで支えるにはどうしたらいいかを考える力が重視される。

望まれる結果を出すためにはどのようなデータが必要となるか、定型的なデータだけでなく非定型的なデータも対象としてどのように集めどのように処理するのがいいか、試行錯誤を繰り返しながら実装していかなければならない。AIを組み込んだシステムはAIが解を出すが、なぜその解に至ったかは提示されない。技術者が、AIが出した解の精度について確認する必要がある。そうしなければ人が信頼して使えるシステムは構築できない。随時バージョンアップされていくシステムでは、マニュアルはこれまでのような分厚いものではなく簡単な使い方ガイドだけで、 例えば動画で具体的な説明をするようなことも考えていいだろう。

情報システム部門の専門家でないユーザーと相対するとなれば、ユーザーとうまく対話し、ユーザー教育も併せて実施していく必要がある。このような条件をこなすことがこれからの情報サービス企業の専門家チームに求められるだろう。ユーザの業務をよく知り、デジタルビジネスに必要な技術と製品の知識を有し、それを揃えてシステムを構築し、使い方を教え、さらに改善を加える。

従来型ビジネスとは全く違った方向性となる。求められるのは好奇心、チャレンジ精神、コミュニケーション力などで、足りない部分を補ってくれるネットワークを持つことも必要となる。特にデータに基づく科学的なビジネスや経営を支えるために必要な構成デバイスを把握する力や、正しい解を得るための統計データを揃える力もチーム全体として不可欠である。

DXの可能性は、ユーザーの事業領域そのものの問題であるから、情報サービス企業としては、新たな可能性についての提案やユーザとの共同実験、欠けている技術要素を補ってくれるパートナーを発掘する工夫や仕掛けをつくっていくべきと考える。例えば、技術者の社外交流をオープンにしてネットワークを広げ、チャレンジする者を評価する仕組みをつくり、分野やプロジェクトを縦に固定的に見るだけでなく、柔軟に横断的に見る組織やリーダーを置く。

組織としては、長期的視点、研究開発・教育投資的視点から実証実験に積極的に取り組む姿勢、実証実験を研究開発にとどめず、できるだけ事業部門の中に取り入れていく姿勢(リスクを許容することを含む)や、継続・反復して取り組んでいく体制をつくりあげることにより新たなイノベーションへの対応力が備わっていくだろう。

3 求められるエンジニア像

IT業界で仕事をするうえで、技術の発展に追随する必要がある。近年の状況は、従来にも増して変化が速く、次々と新しい技術や応用が登場しているように感じられる。しかし、多くの技術は、突然生まれてくるものではなく、長年の改善、洗練を経てある時点で急に注目されることが多い。また、コンポーネント化された部品や技術の巧みな組み合わせでヒット商品が生み出される場合もある。

過去の成功にとらわれ過ぎると、新たな環境への適応を阻害してしまうことに十分注意しつつ、技術の系譜を理解し、これまでの知識や経験を生かして能力の向上を図る姿勢が、個人にも組織にも求められる。過去の技術についての知識は無駄にならず、新しい技術修得の助けになる。過去学習したことが、少しずつ進化して出てくるに過ぎないともいえる。まず一つ得意なドメインを持っておくと、そのドメインの周辺技術や類似技術の修得が容易になる。これはプログラミング言語の習得にも当てはまる。手続き型言語しか知らなかった人がオブジェクト指向の言語を一つ知ることにより、また関数型の言語を一つ知ることにより、それに類似したほかの言語の習得もしやすくなる。多くの技術がおもちゃのような段階から発展してきたこと、そのような新技術に心踊らされ学習してきたことが現在の技術を形つくってきたことを忘れずに、新しい時代に立ち向かっていく心構えを持つことが大切である。

情報サービス企業の使命は「一歩先の技術、旬の技術で顧客の価値拡大を共に実現すること」にある。顧客の価値拡大をともに実現するためには、言われたものをつくるという姿勢から顧客業務の側に踏み出し、利用可能な技術による解決策を提案するなど、リスクをおそれず挑戦する姿勢を持つことが重要となる。

※「ITエンジニアの働き方改革 情報サービス産業白書2019」掲載

#DX#SIer#論文

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