2020.11.25

★Uncle Myke’s letter (完)★

SEに求められるスキル②

SEに求められるスキル②

【著者】山谷正己(Myke):米国Just Skill, Inc.社⾧。日本アイビーエムを経て、米国IBM、米国Amdahl にて仮想計算機(VM)の開発に従事。その後、独立して同社を設立。最新IT ビジネスの調査・コンサルティング、トレーニングに専念。シリコンバレー在住。

ハードスキルとソフトスキル

前回は、システムエンジニア(SE)に求められるスキルは、ハードスキルとソフトスキルに大別されること、そしてソフトスキルのうち表1 (1)(2)(3)について概説しました。ソフトスキルは、価値(value)を産み出すスキルであることからバリュースキル(value skill)とも呼びます。

今回は(4) 創造性についてお話します。

ハードスキル
hard skill

ソフトスキル
soft skill

・プログラミング
・データベース
・ミドルウェア
・ネットワーク
・インターネット
・セキュリティ
 など

(1) ビジネス・コミュニケーション
  Business communication

・読み書き
・プレゼンテーション

(2) 対人スキル
  Interpersonal skill

・インタビュー
・ネゴシエーション
・コラボレーション(協働)

(3) ビジネススキル
  Business skill

・問題分析と解決
・企画、計画の立案
・コストと時間の管理

(4) 創造性
  Creativity

・自由発想
・好奇心、懐疑心

【表1 SEに必要なスキル】

(4)創造性


創造性とは何でしょうか。広辞苑によると「新たに造ること。神が宇宙を作ること」と記されています。・・・ピンときませんね。そこで、ビジネスの先人たちが言っていることに耳を傾けてみましょう。

ソニーの共同創業者である盛田昭夫は「創造性への鍵は好奇心である」と言っています。好奇心を旺盛にして、いろいろなことに興味を持つことで創造性が身に付くということです。すなわち、いろいろ学習・行動・体験をすることで、頭脳のなかのニューロン(脳細胞)が活性化されて、その腕(シナプス)が周りのニューロンの樹状突起に伸びて行ってニューロンの網が形成されて、記憶や理解が生れます(図1)。そのニューロン網が広く拡張することで、創造的な思考ができるようになります。
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【図1 シナプスの成長がニューロン網を形成】

創造性を生かして課題に挑戦して思考する結果、脳に浮かんだアイディアを形にすることで新しいもの(技術、製品、サービス)を創ることができるのです。

天才的な発明王トーマス・エジソンは、豊かな創造性を発揮して蓄音機、電球、発電所、映写機など多くの発明を成し遂げました。「あなたのような天才の秘訣は何ですか」と尋ねられて、エジソンはこう答えました。

Genius is one percent inspiration and ninety-nine percent perspiration

日本語では『天才とは1%のインスピレーション(ひらめき)と99%の努力である』と訳されます。ここでperspirationとは「汗をかくこと」という意味です。エジソンは「努力」などという堅苦しいことを言っているのではありません。私はこれを「99%の行動力である」と訳しています。

マジックテープは散歩から生まれた
マジックテープをご存じですね。面ファスナーとも呼びます。テープの片面に微小な鍵状のフックを、もう一方のテープに毛羽だったループ状の布を張り付けたものです(図2右)。両方のテープを押し付けると、フックがループに引っかかって離れにくくなります。
それを発明したのはスイス人の電気技術者ジョルジュ・デ・メストラルです。彼は、愛犬を連れて野原を散歩しているときに、犬の背中にオナモミの実(図2左)がたくさんくっ付いているのを見て、マジックテープを考え出しました。研究室の中に籠っていたのではなく、野外に出て行動したことでマジックテープを発明したのです。彼は1955年に特許を取って、世界中に提供してきました。
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【図2 オナモミを見てマジックテープを考案】

スターバックスはイタリア旅行から生まれた
コーヒーチェーン店のスターバックスは、1971年にアメリカのシアトル市にいた3人の若者が創業した会社です。当初はコーヒー豆を焙煎して販売する店でした。ニューヨーク出身のハワード・シュルツ(当時29歳)は、1982年にスターバックスに入社しました。
翌年、彼はコーヒー豆の買付けにイタリアを訪れて、イタリア特有のカフェバール(コーヒー喫茶店)を見て、興味を持ちました。当時のアメリカでは、コーヒーを売るだけのコーヒー店はありましたが、カフェバールのようにゆっくり座ってコーヒーを飲める店はありませんでした。彼は、イタリアのカフェバールをアメリカで展開することを考えました。ただし、単にカフェバールを真似するだけでなく、チェーン店として展開する計画を立てました。それが功を奏して、世界一のコーヒーチェーン店に急成長したのです。彼は1986年に社長に抜てきされて、2000年まで社長を務めました。
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【図3 スターバックスはイタリア出張から生まれた】

前述のマジックテープにしても、スターバックスにしても、彼らの行動力が成功を生みました。SEの使命は、公共機関やビジネスにおける情報を効果的に収集、活用するためのITシステムを構築することです。今まで存在しなかった製品・サービスを開発するわけですから、創造性が大きく求められます。

ひらめきを鍛えよう
学習には、手続き学習と認知学習の二つの形態があります。

手続き学習とは、私たちが子供のときから学校で学んできた積み重ね方式の学習です。
1+121+232×2=4、3×3=9・・・といった基礎を覚えてから、四則演算ができるようになります。A、B、C、Dを覚えてから、「This is a book」というふうに読み書きができるようになります。これが手続き学習です。

認知学習とは、漠然と思っていた中から「アッ、そうだ。解った!」というように、瞬間的に新しいことを理解できることです。これがインスピレーション(ひらめき)です。
ひらめきが生まれると、ドーパミンという脳内ホルモンが脳の中に分泌されて、それが前頭の中にある脳の前葉体に拡散します。そして、学習の意欲や、やる気の向上を促します。あなたも何か難しい問題やパズルを解いたときに頭がスカッとした気分になったことがあるでしょう。そのとき、ドーパミンが脳内で分泌されて快感を覚えたのです。これが認知学習です。一発学習、創発学習と呼びます。
歳を重ねていっても、ひらめきが出るように脳を訓練するといいですね。

常識に捕らわれるな
常識に従っていては、新しいことは生まれません。では、常識(common sense)とは何でしょうか。経営学者であるピーター・ドラッカー(*)は次のように言っています。

Common sense is the collection of prejudices acquired by age eighteen

『常識とは、18歳までに得たprejudices(偏見)である。』
すなわち、常識とは、旧来の仕来りや特定の属性にこだわった考え方で、物事を決めたり評価することです。人々は何にこだわることが多いでしょうか。年齢、性別、学歴、そして社会人になると役職で人を判断することが多々あります。
(*)ピーター・ドラッカー(Peter Drucker1909年~2005年):オーストリア生まれの経営学・社会学者。1939年にアメリカに移住。ニューヨーク大学の教授を経て、カリフォルニア州にあるクレアモント大学・大学院教授を務めていた。ビジネスに関する著書多数。

年齢にこだわるな
「若造のくせに・・・」「いい歳をして・・・」と言う人も多いですね。表2に主なIT会社の創業者とそのときの年齢をまとめます。

創業した年

会社名

創業者

創業時の年齢

1975年

Microsoft

ビル・ゲイツ

20歳

1976年

Apple

スティーブ・ジョブス

スティーブ・ウォズニアック

21歳

26歳

1991年

DELL

マイケル・デル

19歳

1998年

Google

ラリー・ペイジ

セルゲイ・ブリン

25歳

25歳

1999年

Napster

ショーン・ファニング

ショーン・パーカー

19歳

20歳

2004年

Facebook

マーク・ザッカーバーグ

19歳

【表2 主なIT会社の創業者が起業したときの年齢】

彼らは、若さゆえに自由な(見方によってはバカげた)発想で、新しい技術・製品を開発して、起業したのです。エジソンが発明した投票機で最初に特許を取ったのは、彼が21歳のときでした。それ以後、矢継ぎ早に発明を続けて、84歳で亡くなるまでアメリカで1093の特許を取得しました。

性別にこだわるな
幼い時から両親や周りの人々から「これはダメ、あれはダメ」とダメ尽くしで行動と思考を抑え込まれてきた人は多いでしょう。「女の子なんだから、木登りなんかしてはダメよ。サッカーなんかトンデモナイ。」と。ところがどうでしょう。なでしこジャパンは 2011年のサッカー・ワールドカップで、世界の強豪を破って優勝したではありませんか。男子はいいところまで行きましたが、まだ優勝したことはありません。今年、アメリカでは初の女性の副大統領が生まれました。

学歴にこだわるな
世間では学歴を云々することがよくあります。それに加えて、一流大学、二流大学といった格付けをしてしまいがちです。学校での成績は、どれだけ知識を得たかの評価であって、人格の評価ではありません。社会人として重要なことは、その人がどんなスキルを持っていて、何を実行できるか、ということです。
主なハイテク企業の創業者のドロップアウト歴を表3に示します。

社名

創業者

ドロップアウトした大学

Microsoft

ビル・ゲイツ

ハーバード大学・中退

Apple

スティーブ・ジョブス

リードカレッジ・中退

Oracle

ラリー・エリソン

シカゴ大学・中退

DELL

マイケル・デル

テキサス大学・中退

Facebook

マーク・ザッカーバーグ

ハーバード大学・中退

【表3 主なハイテク企業の創業者の学歴】

松下電器産業(現パナソニック)を創業した松下幸之助は尋常小学校を4年で中退、本田技研の創業者・本田宗一郎は尋常高等小学校(現在の中学校)卒でした。
前述の発明王エジソンは小学生に入学して3か月たったある日、担任の先生が彼の母親(ナンシー・エジソン)宛てに書いた手紙を持たされて家に帰りました。その内容は「あなたのお子さんは精神的欠陥がある。これ以上、学校に来させないでください。」というものでした。これを読んだ彼の母親は「それなら私がこの子を家で教育する!」と決意しました。すなわち、エジソンは小学一年生を3ヵ月でドロップアウトしたのです。
Appleの創業者スティーブ・ジョブスは、カレッジに入学したものの「こんなつまらない授業に学費を払うのはバカらしい」と入学後3ヵ月でドロップアウトしてしまいました。
こうした先人たちは常識的な教育を受けなかったことで、学歴とは関係なく、斬新な発想で、ずば抜けた発明やサービスを創り出すことができたのかもしれません。

オープンマインドを持とう
古い常識に捕らわれずに、オープンマインド(open mind)を持ち、心の窓を広く開いて世界を見渡すことが重要です。そうしなければ新しいことを思い付きません。
「馬のように速く走りたい、鳥のように空を飛びたい」という先人たちの自由発想が自動車を作り、飛行機を作ってきたのです。そのお陰で今日では、自動車や飛行機の製造業が栄え、それを利用するいろいろなサービスのビジネスが盛り上がりました。私たちは、自分たちのみならず、将来の人々のためにも、新しいものを開発しなければなりません。

失敗を恐れるな
著名なプロ・スポーツ選手の打率を表4に示します。

選手名

最高記録

エラー率

王 貞治

0.355

64.5%

イチロー

0.387

61.3%

大谷 翔平

0.47

53.0%

(ステファン・カレー

0.487

51.3%)

【表4 スポーツ選手の打率】

野球選手イチローの打率の最高記録は、彼がオリックス球団にいたころの387厘でした。大谷翔平のそれは47分です。言い換えると、イチローはバッターボックスに立った回数のうち61.3%はヒットを打っていない、大谷は53%も打っていないということです。アメリカのNBAバスケットの名シューターであるステファン・カリーも半分以上はシュートに失敗しています。そうした失敗を重ねたことで、成功を勝ち取っているのです。

失敗は成功の母
「必要は発明の母」とよく言われますが、「失敗は成功の母」でもあります。新しいことを行うには、リスクや失敗がつきものです。
1957年、当時東京通信工業(現在のソニー)の研究員であった江崎玲於奈は、ゲルマニウムトランジスタの不良品を解析するために実験を繰り返していた際に、誤って不純物を混入してしまいました。ところが、 それで出来上がった素子は、電圧を上げると流れる電流が下がるという常識とは異なる現象を持つものでした。すなわち、トンネル現象という特性を持つトンネル・ダイオード(別名、エサキダイオード)を発明したのでした。その功を表して、1973年にノーベル物理学賞を受賞しました。
島津製作所の研究者・田中耕一も同様に間違った試薬を調合した結果、新しいイオン化法を発明して、2002年にノーベル化学賞を受賞しました。
1809年に米国ケンタッキー州の丸太小屋で生まれたアブラハム・リンカーンは、苦学して弁護士になりました。そこからさらにイリノイ州の議員を目指しましたが落選、その後、事業に失敗して破産、共和党・大統領候補に落選、下院議員に落選、イリノイ州知事に落選といったように失敗を繰り返しました。そして、51歳にしてやっと大統領に当選しました。彼は失敗の連続体験から得た弱者を救う精神を持っていたから、奴隷解放を成し遂げたのです。
「人は、涙の数だけ強くなる」ということです。失敗を恐れてビクビクして行動するのではなく、勇気を持って未知に向かって行動をすることが成功への道なのです。

若者が世界を変える

最後に、私が非常に尊敬しているオランダ人の若者を紹介しましょう。彼の名はボヤン・スラット(Boyan Slat/1994年生まれ)。高校生の夏休みに、スキューバダイビングを楽しもうと地中海に行きました。ところが、透き通っているはずの紺碧の海には、大量のプラスチック製のボトルやビニール袋が浮いていて、幻滅しました。大学に進学したものの、地中海のゴミのことが心に引っかかって、大学をドロップアウト。2013年にThe Ocean Cleanupプロジェクトを立ち上げました。それに賛同した人々が世界中から参画して、海洋のプラスチックごみの除去に挑んでいます。2018年に失敗した後、2019年に再挑戦。アメリカ西海岸から大型船でハワイ沖1300キロメートル沖まで航行して行って、全長600メートルの網を船で引っ張って(図4)プラスチックごみの回収に成功しました。

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【図4 Ocean Cleanup】 出典 https://www.ecowatch.com

こうして回収したプラスチックごみの重量は計40トンに及びました。北太平洋中央にかけてごみの多い海域は太平洋ごみベルトと呼ばれますが、そこには、アジアから海流に乗って流れてきたごみがたくさん漂流しています。2011年の東日本で起きた津波で流されてきたゴミも多かったとのことです。さらに独自に設計した小型のごみ収集船でインドネシアの川、マレーシアの川に浮かんでいるごみの回収にも成功しました。

こうした発想と行動は、既成概念に浸りきったビジネスピープルたちからは生まれません。若者の新しい思考こそが人類の難題を解決できるのです。若い皆さんは社会人になっても、創造性を発揮して、人々の役に立つ新しいビジネスを創り出してください。

人生いくつになっても学習することが大切です。エジソンは母親の教育のお陰で非常な読書家になって、多分野にわたる膨大な数の本を読んで学習したそうです。ニュージャージー州ウエストオレンジ市にあるエジソンの研究所が博物館として残されています。私はそこを見学したことがありますが、3階まである図書室には、数千冊の書籍がビッシリ並んでいました。寝室のベッドは書棚で囲まれていました。彼は時間さえあれば読書をしていたそうです。エジソンは、エンジニアの鏡です。

創造力の源は知識です。知識は学校教育だけでなく、読書やウェブ閲覧、人との会話によって増強されます。そして、常識に捕らわれることなく、オープンマインドで物事を考えることが重要です。毎日コツコツと、ひらめきの訓練をしてください。

The Power of Everyday!


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(山谷正己)

#IT業界#SE

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