2020.9.23

★Uncle Myke’s letter Vol.3★

SEに求められるスキル①

SEに求められるスキル①

【著者】山谷正己(Myke):米国Just Skill, Inc.社⾧。日本アイビーエムを経て、米国IBM、米国Amdahl にて仮想計算機(VM)の開発に従事。その後、独立して同社を設立。最新IT ビジネスの調査・コンサルティング、トレーニングに専念。シリコンバレー在住。

ハードスキルとソフトスキル

仕事をするには、スキル(skill)が必要です。スキルとは技能のことです。レストランの料理人であれば、調理器具を使いこなして、美味しい料理を作るスキルが求められます。建築家であれば、お客さんが望んでいる家の要件を聞いて、それを満たす家を設計して、建築機材を揃えて、設計通りの家を作るスキルです。
システムエンジニア(SE)に求められるスキルは、顧客のビジネス上の問題や要件を聞き入れて、その問題を解決して、要件を満たすためのITシステムを設計・開発・導入するための技能です。その技能は、ハードスキルとソフトスキルに大別できます(表1)。

ハードスキル
hard skill

ソフトスキル
soft skill

・プログラミング
・データベース
・ミドルウェア
・ネットワーク
・インターネット
・セキュリティ
 など

(1) ビジネス・コミュニケーション
  Business communication

・読み書き
・プレゼンテーション

(2) 対人スキル
  Interpersonal skill

・インタビュー
・ネゴシエーション
・コラボレーション(協働)

(3) ビジネススキル
  Business skill

・問題分析と解決
・企画、計画の立案
・コストと時間の管理

(4) 創造性
  Creativity

・自由発想
・好奇心、懐疑心

【表1 SEに必要なスキル】

ハードスキル

ハードスキルとは、決められた規則、技法に基づいて実行するスキルのことです(コンピュータのハードウェアに関するスキルのことではありません)。例えば、ウェブページを作る場合HTML言語で記述します。画面に表示する文字の書体(フォント)の大きさを16ピクセル(pixel:画面に表示する画素数の単位)に指定するには font-size:16px; と書きます。
これを、文字数を減らすために ft-sz:16px; に変えることは許されません。HTML言語の文法は既に標準仕様として決められているからです。すなわち、プログラムを作るためのスキルはハードな(固い)ものなのです。プログラムを書く人によって、多少、行数が異なる場合もありますが、その程度で優劣が決まるものではありません。正しく実行できるものを作れば、それで充分なのです。
その他、データを集積したデータベースの作り方、データを送信する手段となるネットワークなどの使い方、組合せ方は、既に決められたものであり、ハードスキルです。

ソフトスキル

ソフトスキルとは、ソフトウェアのスキルのことではありません。人々と話し合って物事を決めたり、問題の解決策を考案したり、それを文書やスライドにまとめて発表したりするためのスキルです。作業計画を立案して、その計画をチームで共同して円滑に作業を進めるためのスキルです。ソフトスキルは、次のように大別できます。

(1) ビジネス・コミュニケーション

SEの仕事の第一歩はコミュニケーションです。コミュニケーション(communication)とは、情報を相手に正しく伝えて、共有(common)することです。それには次の形態があります。

文書コミュニケーション
報告書、提案書、手紙、Eメールなどの形の文章で表現するコミュニケーションの方法です。

プレゼンテーション(発表、提案)
通常、スライド作成ツール(Windows PowerPoint、MacBook Keynoteなど)を使って、スライド形式で自分の意見や提案を相手に伝える方法です。スライドで表現する内容は、簡潔明瞭な箇条書きと図表で表現します。

文章表現の留意点
報告書などを書くときには、who、 when、 where、 what、 why、 how(誰が、いつ、どこで、何を、どうして、どのように)を明確に記述することが定石です。上記の英単語の頭文字である5つのWと1つHであることから、5W1Hと呼びます。
文章の内容については、次のことに留意してください。

主語を明確に
日本語の会話では、主語を言わないことが多くあります。日記などでは、主語が自明なので必要ありませんが、ビジネス文書の場面では主語を明示しないと、誤解される場合があります。『そこのところを、よろしくお願いします』、『あれをそうすることにしましょう』では、何を誰がどうするのか正しく伝わりません。

簡潔明瞭に
『・・・しかし、・・・そして』などのように接続詞と読点(、)を多用している長文は読みにくいものです。志賀直哉の小説は、簡潔明瞭であることで知られています。志賀直哉の研究家が、同氏の全ての小説を分析したところ、一つの文(センテンス)は平均37文字(概ね1行程度)であるとのことです。2行以上になった場合には、センテンスを分けるように心がけると良いでしょう。

大和(やまと)ことばを大切に
私たちが使っている日本語の中の漢字は、中国からの借りものです。それに、欧米の言葉を表現するにはカタカナも使います。しかもカタカナを使うのが格好いいという風潮があります。例えば、次のような旅行の宣伝をよく見かけます。

今年のサマーバケーションは、ゴージャスなペンションハウスで、プライベートなエコライフをエンジョイしませんか。

カタカナ英語の羅列ですね。これを、次のように表現したらどうでしょうか。

今年の夏休みは、豪華な山小屋で、あなただけの自然豊かな生活をお楽しみになりませんか。

この方が、文字数も少なくて、簡潔ではないでしょうか。カタカタ外来語を使うのはほどほどにしたいものです。

(2)対人スキル

対人スキルとは、複数人がお互いに協力し合って行動するときに必要なスキルです。次のような場面で発揮されるスキルです。

インタビュー(面接、面談、会談)
質疑応答を繰り返しながら相手の意見や要望を聞き出すための会話。

ネゴシエーション(交渉、折衝)
限られた資材の分配や値段・料金などを交渉するための積極的な対話。ネゴシエーションで相手の言いなりにならないためには、事前に自分たちの最高設定値(Maximum Settlement Point)あるいは最小設定値(Minimum Settlement Point)を心に秘めて臨むことが重要です。いずれもMSPと略称します。
例えば、顧客のための新規システムを開発するためのITサービス料を1000万円で提案したところ、顧客は800万円にまけてほしいと持ち出したとします。そこで顧客の言いなりになって、800万円で合意してしまったのでは、利益が減ってしまい、自社ひいては自分の収入額が減ってしまいます。しかし、現実には上得意の顧客の場合には、多少、おまけするのがビジネスの常です。料金交渉に入る前に、MSP(この場合、最小設定値)として900万円を心に秘めて交渉に臨み、巧みに相手を説得して、このMSPで合意して契約を取り付けるのが、プロのビジネスパーソンです。一般的に日本人はネゴシエーションが下手であり、損をすることが多いです。

ビジネス、国際政治の場面に限らず、私たちは友人、知人との間でもネゴシエーションする場合がありますね。学園祭やパーティの準備の役割分担を決めたりする場合には、上記のことを思い浮かべて下さい、上手にネゴシエーションをして、お互いに気持ちよく合意するように努めてください。

共同と協働
通常、SEは、複数人でチームを組んで作業します。それには次のレベルがあります。

共同に関する用語

作業の目的

コーディネーション
coordination

物事を調整すること

集会や式典の手配、手順

コオペレ―ション
cooperation

規則に基づいて共有の目的を目指して行動すること

スポーツ、組立て作業

コラボレーション
collaboration

知的なインタラクションによって新しいソリューションを創ること

システム開発作業

コーディネーション
集会や行事の日時、場所、準備、手順などを決める作業。コーディネーションを行う人をコーディネータと呼びます。打ち合わせるためのミーティングの会場の手配や手順を行う行為です。結婚式場には、式のための諸々の準備と手配を手伝ってくれるウェディング・コーディネータなる役割の人がいます。

コオペレーション
全員が明確な目的を持って、役割を分担して作業すること。スポーツすることや、オフィス作業における事務処理や工場における組立て作業がこれになります。チームを組んで、目的のシステムを開発することもコオペレーションになります。

コラボレーション
人々が「協力し合って働くこと」という意味から、日本語では「協働」と訳されています。特にシステム開発のように知的な仕事を行う際には、もっと深い意味を持っています。すなわち、問題を解決したり、新しい製品を開発したりするために、迅速に(できればリアルタイムで)意思の疎通を行って作業することです。コラボレーションを行うには、前述の2つの共同作業も含んだ上で、より緊密かつ高度に協働することが重要になります。
コラボレーションを円滑に遂行するには、それなりのツールを使います。それが、コラボレーション・ツールであり、その多くはクラウド・ベースで提供されています。そのツールの機能は、FacebookInstagramのようにソーシャル・ネットの機能に加えて、作業の進捗管理、文書管理などの多機能を持っています。

(3)ビジネススキル

通常、ビジネスの三大資源は『人、物、金』と言われています。しかし、一つ欠けているものがあります。それは『時間』です。『人、物、金、時間』の4つの資源をしっかり管理しないと、ビジネスは成功しません。それには、それぞれの目的に合ったソフトウェア・ツールを使います。人材管理にはHRHuman Resource)管理ツール、もの(資産)管理には資産管理ツール、お金の管理には財務・経理管理ツール、時間管理はプロジェクト管理ツールなどです。

ツールを使うためのスキルはハードスキルですが、それをどう使うかは個人の能力と経験によって異なります。ビジネススキルは経験を重ねることで、上達します。社会人になったら、広くて深いビジネス経験を身につけるように努めて下さい。すなわち、多種多彩な産業、地域、人々と出会い、経験することで、ビジネススキルは向上します。

ソフトスキル=バリュースキル
冒頭に挙げたハードスキルでは各人の個性を発揮する余地はありません。一方、ソフトスキルは、言葉づかい、文章の表現、交渉の仕方など、個人によって大きく異なります。そこで、ソフトスキルのことをヒューマンスキル(human skill)と呼ぶこともあります。
顧客に提案するシステムの中に顧客が要望している問題解決策が明示されているか、プレゼンテーションの良し悪しによって、顧客から契約を取れたり、取れなかったりするものです。
ソフトスキルとは、システムを利用する顧客にとって価値を提供するためのスキルです。そしてシステムを開発して提供する自分たちにとっても価値を創り出す源になるスキルなのです。ソフトスキルは価値(value)を生み出すスキルであることからバリュースキルvalue skill)とも呼びます。正しくは価値創造スキル(value-generating skill)と言いますが、ここでは略してvalue skillと略して呼ぶことにします。
ハードスキルは、必要になったときに参考書やe-ラーニングで学習できますし、比較的短期間で習得できます。しかしソフトスキルは、一朝一夕で身に付くものではありません。日ごろから、体得するように心がけることが重要です。
米国のコンサルティング会社West Monroe Partners社が、 1250社の人事担当管理者を対象にして行った昨年の調査によると、担当者の98%が面接、筆記テストにおいて応募者のソフトスキル(すなわち、バリュースキル)を重視するとの回答でした。さらに担当者の66%は、ソフトスキルが乏しいと、採用しないとのことでした。

言葉を鍛えよう
哲学者Ludwig Wittgenstein(ルードウィヒ・ウィトゲンシュタイン(1889年~1951年)オーストラリア生まれの元ケンブリッジ大学・哲学教授)は次のように語っています:

The limit of my language means the limit of my world.

ここでいうlanguageとは言葉という意味です。すなわち、「私の言葉の限界が、私の世界の限界である」と言っているのです。人は、世の中の森羅万象を言葉で表現します。筆者である私も、こうして言葉でこの記事を書いているのです。前述したビジネス・コミュニケーションでは、全て言葉で表現して、他の人に伝えます。貧弱な言葉、間違った言葉では正しく伝わりません。幼稚な言葉や擬音をまくし立てたのでは、正しく伝わりません。簡潔明瞭で適切な言葉を使うことが重要です。

『この間、沖縄へ行ってきたよ。海がスゲー綺麗だった』と言ったのでは、沖縄に行ったことがない人には伝わりません。『青空に浮かんだ白い雲が沖縄の紺碧の海に映えて、とても綺麗だった』と言えばその情景が良く伝わります。

若いうちに言葉を鍛えることが大事です。それには、文学作品やウェブ検索で有益な情報を読んだり、いろいろな人々(老若男女)と会話をすることが役立ちます。名作映画やテレビドラマを観ることも、言葉を磨くことに役立ちます。漫画とテレビの下品なドタバタ番組は、息抜きにはいいですが、言葉を鍛えるのには役に立ちません。

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【図 言葉を鍛えよう】

社会人になって仕事に就くと、時間の余裕が少なくなります。若いうちにできるだけ多く読書・映画鑑賞することをお薦めします。筆者は学生時代に幸田露伴の小説「五重塔」を読んで、その主人公である十兵衛の生き様からエンジニア(小説では宮大工)としての気質を学びました。

創造性については、また別の機会にお話することにします。

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(山谷正己)

#IT業界#SE#文系

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