2020.3.25
2000年頃「ERP等のBPRツールをどう考えるか」/2000年-現在「日本の立ち位置は」
ベテランと若手の業界人が「平成の30年=SIの30年」を振り返ることで、SIerとしての自らの立ち位置や発想・行動パターンの特徴を再確認し、「令和=DXの時代」にいかに向きあうべきか、そのためには何をすべきかを考察する。
平成元年から語る
2000年頃
~ERP等ベストプラクティスをパッケージ化したBPRツールをどう考えるか~
三谷
- この時代には製造業を中心に、グローバルビジネスが展開されていました。世界中のリソースをうまく使いながら、世界全体で最適化したビジネスで勝負しようという流れが出てきました。この業界でもグローバルデリバリーモデルといってインドなどのリソースを活用しながらより安く開発するという、いわゆるオフショアという形態が出てきました。このあたりはいかがでしょうか?
宗平
- お客さんが海外に出るので、我々もついていくという流れでした。ただ、外へ出られるSIerは本当に上のほうだけで、ほとんどが国内にとどまっていたと思います。
猿田
- 当社も最近は北米やEMEA等でやらせていただいているんですが、やはり少し苦戦しています。知名度を勘案し、国内とは違うやり方を考えていかなければいけないところだと思います。
宗平
- アメリカにはSIerはないって話もありますよね。
鹿島
- 言われたとおり、お客さんが出ていった中、調達システムがグローバル化しましたよね。製造業の自動車を見ていますと、生産計画、販売計画、全部集めてきて、今度はそれを部品展開して回す。きちんとやったら立派なものになるんだろうなと思うんです。
三谷
- もう一つお聞きします。オフショアというものは今でも継続してこの業界では行われています。これはどんなふうに総括されますか?
宗平
- 最初、オフショアといえばインドといって取り組んだのですが、皆あえなく退散して帰ってきた。結局仕様がはっきりしていないと、インドとは絶対にうまくいかない。それで中国に行きましたが、中国も最近はアメリカっぽくなっていて、今はベトナムが結構曖昧な仕様を出しても行間を読んで「こうですか」と丁寧に聞いて作ってくれるので、ベトナムに行くことが多いです。やはりその頃から要件をフィックスしきれないという課題がずっと残っている気がしますね。
三谷
- ユーザ企業がベンダに、「あなたの会社は、仕様があいまいでも何となく我々の目を見てつくってくれるからありがたいよ」と褒めるという話はよく聞きます。けど、考えてみるとおかしいですよね。要求仕様をちゃんと明確にしてもらうのが本当ですから。(笑)
鹿島
- インドも中国もベトナムも、きちんと何を作らせるかが発注側で決まっていないと難しいですよね。そうでなければScrumの中で作らせて、自分たちが考えたものになっているかを元請け側が判断するような仕掛けにしないと、なかなか上手に使えないような気がします。当時、海外の値段は本当に(日本の)10分の1で、使わない手はないと思いましたが、やはりうまくいきません。しかも今はどんどん価格が上がっている。だから当社は発注方法論というのを一生懸命作ろうとしたんですが、発注する側、元請け側から考えると、10の仕事をさせるのに10設計しなければならず、面倒くさいんです。日本の外注さんに頼んだら、10の仕事をさせるのに6ぐらい設計すれば、それで済んでしまう。だからオフショアにおいては忖度してくれる中国、ベトナムのほうがいいということになります。
三谷
- そもそも外注やオフショアの価値とは何なのか。最も重要な価値である「作る」というところを外に委ねていいのかということを考えてしまいます。
猿田
- それはすごく感じます。我々の価値は何なんでしょうと聞くと、そういう下請けを束ねてコントロールしていることだよと言う人もいるんですよね、本当に。
三谷
- それなら、こんなにたくさんのエンジニアはいらないかもしれませんね!
猿田
- そう思うんですけれど。(笑)
鹿島
- いま社内で一生懸命やらせているのは、自社のIP(知的財産)製品を作れということです。人月ではなく、IPを使ったことによってお客さんが得る価値の何%を我々に返してくれると。我々の価値はやはりエンドユーザが持ち得ないITの技術に関する知識とインテグレートする技術だと思います。データレベルやプロセスレベルでインテグレートなど、そこに必ずノウハウがあると思っています。ビジネスモデルとしては時代遅れかもしれませんが、システムインテグレーションという機能自体には我々の価値は絶対にあると思っているんです。
三谷
- そこはずっと残っていきますね。
鹿島
- いまやIoTで体重計にまでコンピュータが入っている。だからシステムのマネジメントは絶対にあると思っているんですよ。ネットワークにつながって、どんどん広がっていくほうのオープンになればなるほど、セキュリティが絶対必要です。価値の根源になる、つまり新入社員が卒業する40年ぐらいもつかもしれないから技術を磨いておけと言っているのは、システムインテグレーション、システムマネジメントとセキュリティの3つです。
宗平
- SoRとSoEを対立構造で考えるのではなくて、SoEをやろうと思ったらSoRを使わなければいけないことがいっぱいあるので、どううまく全体をつなげていけるようなアーキテクチャ、絵を描けるかだと思うんですよね。
鹿島
- だからAPIなんて、本当にいいことを考えたなと思います。苦労したからああいう知恵が出てきたんだなと。
三谷
- APIで連結をしながらセキュリティを担保し続けていくには、今までと違うような技法が必要になってくるはずですよね。
2010~現在 経済情勢・90年代から萌芽的に見えていたものが開花した中、日本の立ち位置は~
三谷
- いまデジタルの時代ということで注目されているAI、IoT、ビッグデータ、VR等は、どれも最近発見されたわけではありません。けれど、情報技術がコモディティになり廉価で活用できるようになってきたがゆえに、昔夢想していたことがリアルにできるような時代になったということだと思います。一方でITではなく、「デジタル」という言葉が市民権を得てきています。「Society 5.0」という政策は、全てデジタルの話です。他方、アメリカのGAFAや中国のBATのような新しいビジネス形態も出現しています。このような中でこれからSIerは何をやっていくべきでしょうか?
Society 5.0
サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society) 狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもので、第5期科学技術基本計画 ...
宗平
- 経産省の「DXレポート」の中に「技術的負債」というのが出ていましたよね。
三谷
- Technical debtというやつですね。
宗平
- 当時はよかれと思って作っていたんですが、今DXの時代になって、繋がないといけなくなったときに、繋げられず負債となっている。だから我々の責任として、デジタルをやりたい人たちがちゃんと繋げられるようなかたちに作り替えていくということをやらないといけないと思いますね。
三谷
- 確かに作ってきた人間としての義務ですね。でもレガシーを再構築するのは大変なんですよね。(笑)
猿田
- レガシーからデジタルへのシフトというフェーズはどこかで必要かなと思いますね。
三谷
- そういえば、今年情報処理技術者試験からCOBOLがなくなりました。理由は、若い人が選択しないから。でも一方で世の中にはCOBOLがまだたくさんあるという状況は続いています。
プレス発表 基本情報技術者試験における出題を見直し:IPA 独立行政法人 情報処理推進機構
IPA(独立行政法人情報処理推進機構、理事長:富田 達夫)国家資格・試験部は、国家試験である「基本情報技術者試験」について、AI人材育成のニーズ等を踏まえ(*1)、出題の見直しを実施しました。具体的には、プログラム言語の見直し(COBOLの廃止、Pythonの追加)、プログラミング能力、理数能力等に関する出題の強化です。
猿田
- 当社が納めたシステムも結構COBOLのものがあって、Javaにマイグレーションしようという話もたくさんありますね。
鹿島
- でも、私のような法学部出身でフォーマルなトレーニングを受けなかった人間から見ると、逆にメインフレームから入って本当によかったと思うんです。全体像を理解できるからです。レガシーだ、デジタルだと言われても、もともとレガシーも実はデジタルなんですと言いたいですね。その一方で、さっきから言っているように、本質は変わらない。だから時代が変わって、インターネットの時代、オープンソースの時代となっていますが、やっていること自体はあまり変わらないと思います。今後SIerは守備範囲が増えることはあっても、減ることはない。だから業界側の立場として私はそんなに悲観していないんです。
宗平
- 6月のソフトウェアシンポジウムで、レガシーソフトウェアのブラックボックス化をいかに防ぐかという議論をしていました。大学のソフトウェア工学の先生からは「昔からソフトウェアを部品化して作りなさいと言っていたのに、なぜ作っていないんですか」と痛い指摘をされました。予算の関係もあって、付け焼き刃で直してというのを繰り返してしまったので、スパゲッティになってしまっているんですけれど。
鹿島
- 部品やモジュラーとして作りたいんです。最初から上手にアーキテクチャを組めればいいんですけれど、最初はわからなくてね。
宗平
- 我々もソフトウェア工学をしっかりと勉強しないといけないというのは痛感しています。今文系からエンジニアになる人が多いのですが、ソフトウェアを勉強された方からすると、結構むちゃくちゃな作り方をしているということが、業界を見ると、いっぱいあると思います。特にマイクロサービス等も出てきているので、アーキテクチャは非常に重要になってきます。
猿田
- 文系出身の若手のエンジニアが増えてきてはいますが、コンピュータサイエンスやソフトウェア工学の基礎みたいなところはやはり研修するべきだと思います。なんとなく経験だけでいくと、やはりどうしてもどこかで歪みや限界が見えてくると思うんですよね。
宗平
- そうですね。コードクローンがあちこちできたりね。そこは我々もプロとして基礎をやり直さなければいけないから。PM偏重をそろそろやめないといけないという感じはあります。
三谷
- 教育投資も実はあまりやっていないのではないかという話は、この業界でよく言われていますね。
猿田
- 結局、エンジニアの稼働を上げなければいけないので、やりたいという思いはあるのかもしれないですが、現実はそうはなっていないという感じはします。
宗平
- オフショアのときに中国から嫌われた理由が、向こうは全部ソフトウェアや情報系の大学院を出ているのに、日本は技術の分からない文系の技術者が指示をしている。それをすごく彼らは感じたらしくて。
三谷
- インドでもITエンジニアのレベルはかなり高かったりしますものね。
三谷
- 今後デジタルサービスを提供するユーザ企業と、そのデジタルサービスをつくっているベンダとは、今までよりずっと近い距離にいないといけないと思います。アジャイルが注目されているのもそれが理由でしょう。従来のようなRFPのやり取りから始まらないビジネスモデルがはじまる。そんな時代が目前だと思うのですが、いかがですか?
宗平
- まさしく今企業でデジタル系を推進している部門には、SIerが入っていなくて、ネットやベンチャー系の人たちが入っている。
三谷
- プログラマーもユーザーも一緒になってワイワイやっている印象です。
宗平
- やっています。SIerが入っていこうとすると、何か嫌われて...
猿田
- お呼びじゃない感じがしますね。
宗平
- ドキュメントをいっぱい書かされるって言われます。(笑)こちらも変わっていかなければいけないところがあると思います。やはりアジャイルについてJISAで議論したときも、課題は契約モデルだと思いますね。
三谷
- まさに。契約云々を言ってしまうとお客さんは「じゃ、うちは中で育てるよ」となってしまいますよね。
宗平
- そう。だからお客さんと一緒に作っていけるようにするためにも、早くアジャイルの契約の雛形を出さないと、と思うんですよね。
三谷
- プログラムをつくるという行為はどんどんコモディティになってきています。小学校でプログラミング教育も始まり、一般的なの教養のひとつになるということだと思います。そんな時、私たちSIerはどんな価値を提供するべきでしょうか。さっきお話のあった「どうインテグレートするか」ということが価値であるとすれば、その価値を追及すべきだと思いますけれど。
鹿島
- 一度、パッケージではなくソフトウェア部品を売れないかということを考えたこともあるんです。
三谷
- さきほどの「IP製品を作れ」ということと同じ方向性ですよね。
鹿島
- これもやはりなかなかややこしいんですよね。当社には1500人程エンジニアがいますから、みんなが食べられるように、彼らの価値の源泉を見出さないといけない。当社のオープンソースの部隊は50人くらいなんですが、彼らの粗利益率は、システムを受託開発している部隊の粗利益率の倍以上で、モデルとしては猿田さんと同じ、基本的にはサポートモデルなんです。この部隊は個々人の能力が非常に高いものですから、スケールアップは望めないのですが...。粗利の率が価値の源泉とするのであれば、やはりオープンソースのサポートとJava等でプログラムを組むというものの価値は倍も違うのかと思いますね。
三谷
- そうするとまずは、たくさん稼いだ人にはたくさんお給料を払うことが重要ですよね。(笑)
猿田
- それは大事だと思いますね!
鹿島
- それはいいんですけれど、少ないですよ。本当に優秀な人って!
猿田
- 優秀なエンジニアが出て行ってしまうことが最近は問題視されていますよね。結局、お金だけじゃないんですよ。さきほど言ったように、エンジニアが新しいことにチャレンジできる環境がない。だから少ないなりに、どうつなぎ止めていくかというところも考えていかなければいけないのかなと思いますね。
三谷
- 「つなぎ止める」ということがそもそも無理があるような気がします。流動的な雇用を前提としてビジネスを行っていくような形態が望ましいのでは。
宗平
- そういう人たちにとって魅力のある業界にしていかなければいけないですよね。
猿田
- アメリカとかだと、ジョブホッピングが普通に行われるようですし。
三谷
- オープンソースの世界を見て、いつもすごいなと思うのは、「コミュニティの強さ」です。コミュニティの中で、仕事の授受や、転職の相談なんかも含めていろいろなことが行われている印象です。個人が個人としてコミュニティで自分のスキルアップを積極的に行っている、これはとても今風ですよね。特定の企業に閉じた世界ではなかなか考えられません。
次回、vol.4(最終回)「現在から未来 ~令和のSIerはどこに向かっていくべきか?~」に続く
vol.2「1995年~2000年「アウトソーシングとは何だったのか」「インターネットとは何だったのか」」はt
#DX#SIer#オープンソース#対談
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