2020.8. 5
★Uncle Myke’s letter vol.2★
IT産業は不況知らず
【著者】山谷正己(Myke):米国Just Skill, Inc.社⾧。日本アイビーエムを経て、米国IBM、米国Amdahl にて仮想計算機(VM)の開発に従事。その後、独立して同社を設立。最新IT ビジネスの調査・コンサルティング、トレーニングに専念。シリコンバレー在住。
コロナ・パンデミックの影響
コロナ・ウィルス(以降、コロナと略す。)は、世界経済に甚大な被害をもたらしつつあります。
米国では2月後半からコロナが蔓延し始めて、3月上旬には主要都市で非常事態宣言が発令されました。それに伴って景気が減速して、ビジネスの収益は激減してしまいました。事業を縮小して、従業員をレイオフする企業が増えました。特に一般消費が冷え込んだことから倒産に至る小売業も増えています。
主な事業縮小の例を表1にまとめてみました。ここでいう倒産法とは米国連邦破産法のことであり、債務の処理と企業の再建計画を定めた手続きのことです。
業界 | 会社名 | 概要 | ビジネスの影響 |
小売業 | Bed Bath & Beyond | ベッド、台所、風呂用品の量販店チェーン | 全米1530店舗のうち200店舗を閉店 |
Brooks Brothers | 高級紳士服の老舗 | 従業員4千人のうち1/3を一時解雇。200店舗のうち50店舗を閉店。倒産法を申請 | |
GNC | ビタミン・サプリメント販売 | 全米5200店舗を閉店、倒産法を申請 | |
JC Penny | 庶民向けデパート | 846店舗。倒産法を申請 | |
Levi Strauss | ジーンズの最大手 | 前四半期の売上は、昨年同期の62%減。本社機構の700人をレイオフ | |
Macy's | 米国最大のデパート | 552店舗。第2四半期の売上は昨年同期の62%減。本社機構の700人をレイオフ | |
Nieman Marcus | 超高級デパート | 42店舗、従業員1万4千人。倒産法を申請 | |
Tuesday Morning | 庶民向け日用品デパート | 687店舗。倒産法を申請 | |
配車 サービス |
Lyft | 配車サービスの二番手 | 従業員の17%にあたる982人をレイオフ、288人を自宅待機。給与カット:役員-30%、管理者-20%、従業員-10% |
Uber | 配車サービスの最大手 | 従業員3700人をレイオフ | |
レンタカー | Hertz | レンタカーの最大手 | 従業員2万人を自宅待機あるいはレイオフ。負債$170憶を抱えて破産法を申請 |
航空機 メーカ |
Airbus | 欧州の航空機メーカ | 1万5千人をレイオフ |
Boeing | 世界首位の航空機メーカ | 6770人をレイオフ | |
航空会社 | American航空 | 航空サービスの2位 | 5千人を一時解雇 |
Delta航空 | 航空サービスの首位 | 便数を85%削減。第1四半期は$5億3400万の赤字。従業員9万人のうち3万7千人を一時解雇 | |
United航空 | 航空サービスの4位 | 10月以降、3万4千人を一時解雇 | |
その他 | 24 Hour Fitness | フィットネスセンター | 世界700ヵ所のうち約半数を閉鎖。倒産法を申請 |
Airbnb | 従業員7500人のうち1900人をレイオフ | ||
AT&T | 通信キャリア | 3400人を解雇、250店舗を閉鎖 | |
Yelp | レストランなどの評価サイト | 従業員5950人のうち、レイオフ1000人、自宅待機1,100人 |
【表1 コロナによる事業縮小の例】
最も大きな影響を受けているのが旅行およびホスピタリティ関連の会社です。
この間に、飛行機を利用する旅行者の数は前年比75%減少。その結果、航空会社は運行する便数を減らした上、機内は3密を避けるために、客席は満席にはできないので、赤字で航行する便もあるとのことです。
そこで、米国政府は航空会社に一律に$250億(約2兆7千億円)の支援金を支給しました。アメリカン航空の場合、その支援金でも足りないので$47億5千(5000億円)のローンを組みました。日本でも航空会社にはそれなりの支援が施されたことでしょう。
失業率増大
こうした結果、多数の人が職を失いました。主要各国の失業率の推移を図1に示します。
【図1 主な国の失業率の推移(各国の労働統計をもとにグラフ化)】
米国の失業率は、4月には14.7%に跳ね上がりました。その後、5月は13.3%、6月は11.1%と少しだけ減少傾向にありますがまだ安心はできません。6月末の就業者は1億4220万人ですが、失業者は1780万人もいるからです。
日本の失業率は昨年以来2.2~2.4%の低水準で推移してきましたが、4月に緊急事態宣言が発令されると、失業率は4月の2.6%から、5月には2.9%に上がりました(総務省の発表)。
日本の失業率が、諸外国よりも小さいのは、休業者や労働市場から一時的に退出した人数が労働の調査統計には含まれない完全失業率のためです。
今年の世界の景気は?
国際通貨基金(International Monetary Fund:IMF)の推計によると、今年の世界各国の国内総生産(GDP)の成長率は大幅に後退するとのことです(図2)。
米国は8.0%減、日本は5.8%減との予測です。中国はこれまで 6%~7%の成長を保持してきたが、今年は1%に留まるとの予測です。
【図2 各国のGDP成長率(IMF World Economic Outlookのデータをもとにグラフ化))】
株価指標の変動
コロナ・パンデミックによる景気変動は、株価にも大きな影響を与えています。
代表的な株式市場の株価指数の過去1年間の推移を図3に示します。この図は1年前の株価指数を基準(ゼロ)として、それぞれの指標の増減をグラフにしたものです。
【図3 株価指標の推移(Bloombergのサイトを利用して作成)】
ここで、それぞれの株式指数の意味は、表2のとおりです。
シリコンバレーインデックス (Silicon Valley Index) |
シリコンバレーの代表的なハイテク企業13社(Apple、 Facebook、 Google、 HP、 Intelなど)の株価の総合指数 |
ナスダック総合 (NASDAQ Composite) |
NASDAQ株式市場に上場しているハイテクおよびIT企業の株価の時価総額の加重平均の指数 |
日経平均 | 東証1部に上場している代表的な企業の中から業種などのバランスを考慮して日本経済新聞社が選んだ225社の株価の平均値 |
ダウ工業平均 (Dow Industrial Average) |
米国の代表的な会社30社(3M、 American Express、 IBM、 McDonald'sなど)の株価の平均指数 |
【表2 代表的な株式指数】
図3を見てお分かりのように、コロナが爆発した2月後半から株価は急激に下落しました。3月20日頃に底を突いて、その後、少しずつ回復を続けています。
暴落前 2月20日 |
底値 3月20日 |
7月10日 | |
シリコンバレーインデックス | 2,599 | 1,869 | 2,907 |
ナスダック総合 | 10,564 | 6,879 | 10,617 |
日経平均 | 23,479 | 16,552 | 22,285 |
ダウ工業平均 | 29,219 | 19,173 | 26,075 |
【表3 株価変動の前後の株価指標】
表3の暴落前(2月20日)の株価指標と直近(7月10日)のそれを比較してみてください。ダウ工業平均と日経平均はまだ暴落前まで回復していません。一方、ナスダック総合は回復しています。さらに、先進ITの発信地であるシリコンバレーの企業のインデックスは既に暴落前を超えて上昇を続けています。その理由は、一般企業がコロナ対策のため、IT機器を追加購入して、先進ソフトウェアを利用することが増えているからです。
コロナ特需よる成長企業
最も顕著な例がウェブ会議システムの採用です。通勤電車およびオフィスの中での3蜜を避けるために、多くの会社では社員の通勤をやめて、出張も禁止にしました。そこで自宅からテレワークをするようになりました。Facebook、Google、Twitterなどの企業では年内はテレワークを継続することにしています。
インターネットを使って、セキュリティを遵守した上で、自宅から会社(あるいはデータセンタ)にあるデータ、文書をアクセスしてテレワークすることができます。しかし、どうしても必要なのが対面会議です。それも音声・ビデオ機能を持ったウェブ会議方式を使えば、円滑に対面会議ができます。
いろいろあるウェブ会議サービスの中で、機能が豊富でいま最も人気があるのがZoom(ズーム)です。世界中の多くの企業のウェブ会議や学校の遠隔授業で使われています。
Zoom社は2011年に設立された、シリコンバレーにある会社です。ベンチャーキャピタルから計$1億4500万の投資を受けて成長を続けて、2019年にナスダックに上場を達成しました。ウェブ会議の普及に乗じ、同社の株価は図4に示すように、コロナのパンデミックに伴って急上昇しています。そして更なる機能向上のためにソフトウェア・エンジニア500人を募集中です。
【図4 Zoom社の株価の推移】
人々は、お店に出かけて行って買い物をするのを避けて、インターネット(食材の宅配、ネット通販など)を利用するようになりました。したがって、その分野の会社は特需にあやかって大繁盛。従業員を増員するなど、事業を拡大しています。ベンチャー企業の場合には、ベンチャーキャピタルから追加の投資が増えています。主な会社を表4にまとめてみました。
サービス内容 | サービス提供会社 | 概要 |
レストランの料理、食材の宅配サービス | DoorDash | 売上21%増、料理宅配市場の45%を占有。ベンチャーキャピタルから$4億の追加投資 |
Instacart | 配達要員25万人を雇用する計画 | |
ネット通販 | Amazon | 第1四半期の売上は26%増。新たに17万5千人を雇用する計画 |
ロボット開発 | Simbe Robotics | 棚卸し測定ロボット |
Xenex | 消毒ロボット。病院、ホテルなどで利用 | |
映画配信 | Netflix | 映画館は閉鎖、自宅で映画を見ることが多くなったため、この四半期で世界の新規ユーザが1577万増えて、1億8300万に達した。 |
【表4 コロナ特需で急成長している企業の例】
いずれも最先端のITを駆使して、新しい製品・サービスを提供している企業です。これらはIT企業と呼んでもよいでしょう。いまやITこそが、新しいビジネスを創り出すツール(道具)であり、人々が楽しく・迅速に仕事を遂行するのを支える大事なツールなのです。
IT企業の市場価値
図5は米国企業の市場価値の上位10社を示したものです。参考までに日本企業の上位5社(桃色)も示してあります。
【図5 主な企業の市場価値(7月10日現在)】
市場価値とは、その会社の「株価✕発行株数」のことです。優れた製品・サービスを提供して、優れた業績の会社の株は上昇し、市場価値も高くなるわけです。言い換えると、もしその会社を買収しようとしたら、市場価値と同額以上が必要になる、ということです。
図5が示すように、市場価値の上位5社(水色)はIT企業が独占しています。なんとAppleの市場価値は$1兆7千億(約180兆円)、Facebookのそれは$7千憶(約75兆円)です。
以上でお分かりのように、IT産業は不況に強く、世界の経済を牽引しているのです。しかも、3K(きれいで、稼ぎが良くて、賢い)仕事なのです。皆さんもITの仕事で、日本の経済を盛り上げましょう。
(山谷正己)
#3K#IT業界#SE
- この記事をシェアする
- この記事はいかがでしたか?