標準化の成り立ち

 標準化という概念には、計量単位の統一や、様々な機器の取り扱いが共通化されていること、例えば部品の互換性、接続の互換性などが含まれている。標準化の歴史は近代から始まるものではなく、度量衡や建築構造物が生まれた時期から始まっている。

古代の標準化

 古代の標準化は、度量衡の分野から始まっている。シュメールやエジプトの古代文明では数学の発展と同時に計量単位の統一が行われている。シュメール人は、紀元前30世紀から25世紀ごろまでに、複合的な計量システムを開発した。粘土板に楔形文字で乗算表を書き、幾何学の学習と除算問題に利用したという。メソポタミアの王権の象徴は、神から直接に渡された直尺と巻尺であり、度量衡、標準化が非常に重要視された形跡がレリーフとして残されている。

 東洋では、秦の始皇帝が統一国家を作るために、道路網の整備、文字、度量衡を統一したことが有名である。面積、長さ、重さ、体積すべてについての標準化が、この始皇帝の度量衡で行われた。始皇帝は統一前の各国の文字を廃し、秦の文字で統一した。また始皇帝は、阿房宮などの多くの宮廷建築、万里の長城、大陵墓などの多くの土木・建築を構築した。そのためには、建設の必要な測定単位の標準化が必須であり、このために度量衡が生まれている。度量衡は測量の指数であり、度は長さ、量は容積、衡は重量の事を示している。

 3世紀頃のローマ帝国は、現在のイギリスから地中海を囲む全域、エジプト、中東に版図を広げていた。ローマ帝国の強大さは軍事力と土木構築力にあり、それを支えたのは標準化の力である。アッピア街道などの軍用高速道路には戦車の車輪に規格化された轍があり、迅速に強大な戦車軍団を展開することができた。同様に街道や水道、巨大建造物を構築し、何世紀にも渡って維持できたのは、標準化した計量の仕組みと工法が成立していたためである。ローマ帝国の轍の幅が現在の鉄道の標準軌のもとになったといわれている。

近代の標準化

 近代の国際的な測量概念の標準化はフランス革命からはじまる。革命後のフランスによって、1791年に従来の各国の測り方によらず、地球の極点から赤道までの距離の10000分の1と定義した距離の単位「メートル」が、それをもとにした重量、体積の単位「グラム」、「リットル」など、新しい計量単位が定義された。1875年には、17ヶ国が加盟するメートル条約として、当時の国際的な標準化計量測度となり、現在では51ヶ国が加盟している。

 現在の国際的標準化は19世紀末に利用が本格的化した電気が最初の対象となる。IEC(国際電気標準会議)の設立は1906年である。英国電気学会と米国電気学会などが中心となって設立の準備が行われ、日本を含めた13ヶ国で電気分野の規格に関する国際的な標準化組織が1908年から活動を開始したのである。IECの最初の仕事は、電気に関連する分野の測定単位、ガウス、ヘルツ、ウェーバなどを開発し、国際単位系として標準化することであった。

 他分野の標準化に関する国際組織は、1928年のISA(万国規格統一協会)設立まで時間を要する。ISAはねじ、ボルト、ナット、公差などの標準化活動を始めるが、10年程度の活動の後、第2次世界大戦の影響で活動が停止状態となった。戦後、ISAは1947年にISO(国際標準化機構)に再編され現在にいたっている。

 国際標準化組織へのわが国の参加は、戦前では1910年IECへ、1929年ISAへと国際組織の設立後すぐに参加した。戦後も1949年の工業標準化法によってJISC(日本工業標準調査会)が工業標準の調査・審議機関として設置され、JISCを窓口に、1952年にはISOに、1953年にはIECに加盟し、国際標準化活動での役割を担っている。

ソフトウェアの国際標準化

 ISOが取り扱う標準化のテーマとして、コンピュータやソフトウェア関連技術が登場したのは、1960年のISO TC97(Computers and Information Processing)技術委員会が設置されて以来である。その後1961年にIECにもTC53という同一分野を担当する委員会ができ、数年の間二つの国際標準化団体でコンピュータおよびソフトウェア関連の規格を作成することになった。

 IECはその後も1981年にマイクロプロセッサー用言語の規格などを制定し、並立状態は解消されなかったが、1987年にISOとIEC共管の技術委員会JTC1(Joint Technical Committee 1: Information Technology)が生まれ、この分野の国際標準化の統一組織が確立された。JTC1の設立には組織の重複問題を検討する特別委員会におけるわが国の委員の提案が大きな力を持ったとされている。

 ISO TC97における国際標準化のテーマは、用語の統一、文字符号の標準化をはじめとして、文字認識、入出力、プログラム言語、デイジタルデータ変換、定義と分析、機械装置の数値制御の8つからなり、それぞれに委員会が設置された。JTC1に統合された段階では、16のSC(専門委員会)であったが、技術分野の拡大や進化などの影響でJTC1は現在18のSCで構成されている。

 コンピュータおよびソフトウェアに関するわが国の国際標準化対応は、1960年に生まれた情報処理学会が中心となり、学会の中にISO/IEC対応委員会を設けて開始された。その後、JTC1の発足に伴い、情報処理学会内の情報規格調査会に発展的に拡大し、現在にいたっている。情報規格調査会は70社程度の賛助企業によって支援され、大学関係者と賛助企業を中心とするほぼ1500名の委員が、年間数百回以上の国内、国際委員会での審議で国際標準化活動に貢献している。

 わが国のソフトウェア関連分野の国際標準化活動への貢献度は高く、情報処理用流れ図等の規格(ISO/IEC 5807)、ソフトウェア製品の評価(ISO/IEC 9126)などの原案を提案した実績がある。また、国際文字符号規格(ISO/IEC 10646)に、漢字などの非ヨーロッパ系文字を導入する提案にも多くの貢献を行っている。